『IgA血管炎ガイドライン2023』をまずおさえる
小児IgA血管炎はガイドラインが2023年に発行されています。
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概要
- IgA血管炎とは、IgAを主体とする免疫複合体が小血管の血管壁に沈着後に、好中球、補体の活性化が起こり、白血球遊走と血管内皮細胞障害が生じる小型血管炎
- 1837年にSchönleinが紫斑と関節痛の関連を、1874年にHenochが消化器症状と腎障害について報告し、Henoch-Schönlein紫斑病と呼ばれていた
- 2012年のChapel Hill分類でHenoch-Schönlein紫斑病からIgA血管炎に記載が変更された
病因
- 発症の病因として遺伝的な背景,感染症,薬剤,悪性腫瘍等が知られる
- 感染症では上気道炎がしばしば先行するために、小児では溶血性連鎖球菌が多いとされてきた。
他にマイコプラズマ,サルモネラ,伝染性紅斑,アデノウイルス等 - IgA血管炎は免疫複合体が組織に沈着することから始まり、Ⅲ型アレルギーに相当する
疫学
症状
- 紫斑、関節症状、腹痛、腎炎を4主徴という
- 紫斑(100%)
-
- 下腿から臀部にかけて触知可能な丘疹状紫斑(palpable purpura)
- 紫斑なので圧迫しても色が消退しない
- 血小板や凝固系に異常は認めず、CRPやD-dimerは上昇する
- 通常は左右対称性
- Köebner現象が約1/4に見られる4
- 関節症状や消化器症状が皮膚症状よりも先行する例が約10%程度
- 通常4週間以内に瘢痕を残さずに治癒する
- 関節症状(60-75%)
-
- 発赤や熱感はないが、足は膝の自発痛・腫脹を認める
- 最初に整形外科を受診することもある
- 頭部や顔面、会陰部に限局性の浮腫を認める場合はQuinckeと呼ぶ
- 腹痛(50-65%)
-
- 激烈な痛みで自制できない
- 血便を伴うこともある
- 腸重積の合併に要注意
- 十二指腸の炎症が強く、胆汁性嘔吐をきたすこともある
- 腎炎(20-55%)
-
- 血尿を認める
- ほかの症状より遅れて出現する
- 通常は1-3週間以内に出現するが、約10%は2ヶ月以上経過してから出現するため、少なくとも発症6ヶ月までは尿検査を行う
15-35%で腹痛が紫斑に先行するため、腹痛患者でIgA血管炎を鑑別に挙げておくことは重要
腹痛から2-3日以内に紫斑が出現することが多い
急性陰嚢症(精巣上体炎、精巣炎)はIgA血管炎の2-38%に見られ、救急外来を受診する急性陰嚢症の約3%がIgA血管炎患者とする報告もあるためあなどれない
中枢神経症状(頭痛、けいれん、意識障害、頭蓋内出血、脳血管炎)、外陰部症状(陰嚢腫脹、睾丸炎)、眼症状(虹彩炎、ぶどう膜炎、眼底出血)、循環器症状(心筋障害、心電図異常)、呼吸器症状(肺出血)など重篤な病態を合併することもある
診断基準
4項目のうち2つ以上を満たす
- 隆起性の紫斑
- 初発年齢が20歳以下
- 急性の腹部仙痛
- 生検組織での小動脈壁の顆粒球の存在
触知可能な紫斑病を認めたうえで、以下の4つのうち少なくとも1つが存在する
- びまん性腹痛
- 生検によりIgAの沈着を認める
- 関節炎または関節痛
- 腎臓病変(血尿and/or蛋白尿)
- 川崎病を除いたこどもの血管炎のうち、IgA血管炎は90%以上を占めるため、他の小型血管炎の可能性はほとんどなく、触知可能な紫斑があれば、それだけでIgA血管炎としてほぼ確実であるとネルソン小児科学に記載されている
鑑別疾患
- ITPなどの出血性疾患
- 虐待
- 急性白血病
- 他の血管炎症候群
十分な問診、他の症状・所見の有無、血液検査所見で大腿の鑑別はつく
ただ、ANCA関連血管炎で鼻症状・呼吸器症状の目立たないものは鑑別困難なのでANCA抗体価の測定が必要
予後
- 再発や腎合併症が持続するリスクはあるが、一般的に小児IgA血管炎の予後は良好5
- 皮膚、腹部、関節症状は発症後1ヶ月以内に軽快、90%以上が2年以内に完全に回復する6
- 再発は全体の約25%の患者に見られ8歳以上に多く、再発までの平均の期間は9.2ヶ月7
- 発症時に顕微鏡的尿異常のみであったが場合(15%)と比較して腎機能低下やネフローゼ症候群を呈した場合(41%)はCKDや腎不全に移行するリスクは高く、10年腎生存率は78-90%8
検査
- 血算(ITP、白血病などのr/o)
- 一般生化学(血液腫瘍鑑別にUA、LDHを入れておく)
- 凝固(他の易出血性をきたす疾患をr/o、D-dimerが上昇することが多い)
- 尿定性・沈渣(血尿や蛋白尿がないか確認、蛋白尿がある場合は尿TP、尿Creも追加)
- 第ⅩⅢ因子(ステロイドが無効な腹痛にⅩⅢ因子が低値の場合に投与することがあるため)
- 腹部エコー(十二指腸・小腸の壁肥厚・腸液貯留、腸重積のr/o)
腹部エコー
IgA血管炎では十二指腸の壁肥厚が目立つことがあるので十二指腸は必見ポイントです。
また、小腸にも病変が出現しやすいので、小腸の液体貯留や拡張、to and froなどを見つけましょう。
まれに腸重積を引き起こすこともあるため、target signなどないかはざっくりスクリーニングしておくのは重要です。
十二指腸は胃幽門部から追っていくのがセオリーですが、難しい場合は、胆嚢を肋間・肋骨弓下から見るviewで探してみるとよく見つかります。
治療
- 多くの場合self-limitedと考えられているので治療の基本は対症療法
- 症状が非常に強い場合(腹痛で食事摂取困難)以外は基本的に鎮静薬で外来経過観察可能である
- 強い腹痛でステロイドを使用する場合は漸減終了する必要があるので1ヶ月など入院が比較的長期になることが多いため、小児科医としてはこどもに無理させるのはもちろんよくないが、本人・親にとっても長期入院はストレスフルなので可能であれば入院させたくないのが本音である
治療のフローチャート
カロナール 10-15 mg/kg/日 6時間あけて
プレドニゾロン 1-2 mg/kg/日 分3 点滴静注 ※成人最大投与量:60 mg/日
- 症状が改善したら3-7日ごとに漸減し、経口摂取が可能となったら内服薬へ切り替える
- 再燃した場合、PSLを元の量に戻し、改善しない場合は2mg/kg/日まで増量する
- 改善がない場合は、第ⅩⅢ因子が低値の場合は、補充を検討
ファモチジン(ガスター®) 1 mg/kg/日 分2 点滴静注 ※成人最大投与量:40 mg/日
第ⅩⅢ因子製剤(フィブロガミン®) 30-50 mg/kg/日 3日間 ※成人最大投与量:30-50 IU/kg/日、3日間
慢性期のフォローアップ
報告に差がありますが、IgA血管炎患者の約30%に紫斑病性腎炎を発症します。910
少なくとも6-12ヶ月間は血圧および早朝尿検査の評価を継続しましょう。
- 紫斑病性腎炎発症例の大部分がIgA血管炎発症4-6週までに尿所見異常を認めるとされる
- 85%がIgA血管炎発症4週までに、91%が6週までに、97%が6ヶ月までに発症していたと報告されている
4項目のうち2つ以上を満たす
- 血尿
- 蛋白尿(早朝尿蛋白/Cr比 50 mg/mmol ≒ 0.44 g/gCr以上)
- 腎機能障害(eGFR < 80 mL/分/1.73 m2)
紫斑病性腎炎の診断に引っかかった場合は小児腎臓専門医にお願いしましょう。
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【参考文献】
- Jclusic M, Sestan M ; IgA vasculitis or Henoch-Scöhnlein purpura : genetics and beyond. Pediatr Nephrol 2021; 36: 2149-2153. ↩︎
- Ozen S, et al. : European consensus-based recommendations for diagnosis and treatment of immunoglobulin A vasculitis-the AHARE initiative. Rheumatology(Oxford): 2019; 58: 1607-1616 ↩︎
- Oni L, Sampath S: Childhood IgA vasculitis(Henoch Schonlein Purpura)-Advances and Knowledge Gaps. Front Pediatr 2019; 7:257 ↩︎
- Milani GP Lava SAG, Ramelli M et al. : Prevalence and characteristics of non-blanching, palpable skin lesions with a linear pattern in children with Henoch-SchOnleinsyndrome、JAMA Dennatol2017:153:1170-1173. ↩︎
- Oni L, Sampath S: Childhood IgA vasculitis(Henoch Schonlein Purpura)-Advances and Knowledge Gaps. Front Pediatr 2019; 7:257 ↩︎
- Oni L, Sampath S: Childhood IgA vasculitis(Henoch Schonlein Purpura)-Advances and Knowledge Gaps. Front Pediatr 2019; 7:257 ↩︎
- Jauhola O, Ronkainen J et al. : Clinical course of extrarenal symptoms in Henoch-Schonlein purpura : a 6-month prospective study. Arch Dis Child 2010 ; 95 : 871-876. ↩︎
- Hastings MC, et al. : IgA vasculitis with nephritis : update of pathogenesis with clinical implications. Pediatr Nephrol 2022 ; 37 : 719-733 ↩︎
- Narchi H : Rsik of long term renal impairment and duration of follow up recommended for Henoch-Schonlein purpura with normal or minimal urinary findings : a systematic review. Arch Dis Child 2005 : 90 : 916-920. ↩︎
- Davin JC, Coppo R : Henoch-Schonlein purpura nephritis in children. Nat Rev Nephrol 2014 : 10 :563-573. ↩︎
- 岡本光宏 『めざせ即戦力レジデント!小児科ですぐに戦えるホコとタテ』 診断と治療社
- 小児IgA血管炎診療ガイドライン2023
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