“ペニシリンアレルギーと言われたことがある”、”アモキシシリン投与中に皮疹が出ちゃった”などたまに経験することが医者ならあるだろう。本当にペニシリンアレルギーなのか怪しいけどまたアレルギーでたら面倒だし、ペニシリン系一応避けといたり、代替薬の選択に迷ったりすることも多いのではないだろうか?
たまに遭遇するくらいなので周りの先生もあまり理解していないことも多いためこれを機に今一度勉強して周りと差をつけよう。
ペニシリン系抗菌薬アレルギーの実態
- ペニシリン系抗菌薬のアレルギー出現率は5-10%
Ann Allergy Asthma Immunol. 2006; 97(5): 681 JAMA. 1993; 270(20): 2456 - ペニシリンアレルギーと自己申告する患者に遭遇することは多いが、それらの患者の85-90%は皮膚試験(陽性的中率約50%、陰性適中率97-99%)が陰性
Ann Allergy Asthma Immunol. 2006; 97(5): 681 JAMA. 1993; 270(20): 2456
アレルギー型の分類
Ⅱ型とⅢ型は頻度が低いためⅠ型とⅣ型を押さえよう!
タイプ | 即時型 | 遅発型 | ||
---|---|---|---|---|
アレルギー型 | Ⅰ型 | Ⅱ型 | Ⅲ型 | Ⅳ型 |
メカニズム | IgE | 補体 | 免疫複合体 | 細胞性免疫 |
発症時間 | 数分〜数時間 | >72時間 | 10-21日 | 7-14日 |
症状 | 血管浮腫 蕁麻疹 掻痒感 気管攣縮/喉頭浮腫 | 血尿 蛋白尿 | 結節性紅斑 薬剤熱 間質性腎炎 リンパ節腫脹 脾腫 関節痛 | 斑状丘疹 固定薬疹 接触性皮膚炎 |
重症型 | アナフィラキシー | 溶血性貧血 血小板減少症 好中球減少症 | 血清病 血管炎 | AGEP、SJS/TEN | DIHS/DRESS
検査 | チャレンジテスト | 皮膚試験なし | なし | チャレンジテスト | パッチテスト
即時型アレルギー(Ⅰ型アレルギー)
- 抗原暴露後、数分から数時間で発症する
- 皮疹では蕁麻疹や血管浮腫が典型的
- 最重症型はアナフィラキシーで、頻度は0.01-0.04%
- 1時間を超えて致死的な反応が起こることは稀
- 時間とともに過敏性は低下する
5年以内に50%、10年以内に80%の患者の過敏性が消失する
J Allergy Clin Immunol. 1981;68(3):171
ClinRev Allergy Immunol (2012)43: 84-97 J Allergy Clin Immunol. 1981;68(3):171
J Allergy ClinImmunol. 1999;103(5 Pt1):918
遅発型アレルギー(Ⅳ型アレルギー)
- アレルギーの中でⅣ型アレルギーが最多
- 1-2週間で発症し、薬剤中止後1-2週間で改善する(中止後数日は悪化することもある)
- 斑状丘疹が最多で背部などの圧迫部に多い
- 重症型にはDIHS/DRESS、AGEP、SJS/TENがある
- ウイルス(EBV、CMV、HIV、HHV6/7)感染による細胞免疫の賦活が特定の薬剤のⅣ型アレルギー誘発に関連することもある
薬剤性過敏症症候群
▶DIHS:drug-induced hypersensitivity syndrome/DRESS:drugreactionwitheosinophilia and systemicsymptoms
Ⅰ型、Ⅳ型アレルギーの皮疹の違い
原因薬物の検討
- 抗菌使用中のアレルギー症状は抗菌薬アレルギーと考えられがちだが、その他の薬剤アレルギーの可能性についても考える
- 抗菌薬以外ではNSAIDs、抗がん剤、抗てんかん薬、アロプリノールなどがアレルギーを起こしやすい
- カルテなどの情報から過去にどの抗菌薬を使用されたかチェックする
- ペニシリン系抗菌薬を使用された際に問題なかった場合は、ペニシリン系が使える可能性が高い
診療アルゴリズム
ペニシリン系抗菌薬アレルギーの代替薬
グラム陽性菌 | グラム陰性菌 | 嫌気性菌 |
---|---|---|
バンコマイシン | シプロフロキサシン | クリンダマイシン |
ダプトマイシン | ST合剤 | メトロニダゾール |
リネゾリド | アズトレオナム | モキシフロキサシン |
クリンダマイシン | ミノサイクリン | |
レボフロキサシン | ホスホマイシン | |
ST合剤 | ||
ドキシサイクリン | ||
ミノマイシン | ||
クラリスロマイシン |
ペニシリンの構造と抗原
ペニシリン系は構造上、
βラクタム環とR側鎖の2つの抗原を持つ
交差反応にはβラクタム環よりもR側鎖の相同性がより関係する
ペニシリン系と同じβラクタム環を有する抗菌薬はセファロスポリン系、カルバペネム系、モノバクタム系がある
セファロスポリン系抗菌薬との交差反応
- ペニシリン系抗菌薬アレルギー患者でセファロスポリン系と交差反応を起こすのは0.17-14.7%程度
ClinExpAllergy. 2001;31 438–43. Allergy. 1994;49:108–13 - 交差反応の頻度は第1,2世代:10%、第3世代:2-3%と世代により異なる
ImmunolAllergy ClinNorth Am. 2004;24:463–76. - ペニシリン系抗菌薬に対する皮膚試験が陽性の患者でもセファロスポリン系に交差反応を示すのは2%未満
カルバペネム系抗菌薬との交差反応
- ペニシリン系抗菌薬アレルギー患者でカルバペネム系と交差反応を起こすのは1%未満
- ペニシリンアレルギーが軽度の場合はカルバペネム系は使用可能
- ペニシリン系でアナフィラキシーを起こした患者でもカルバペネム系は使用できるかもしれない
- 慎重に投与するならアレルギー専門医にカルバペネム系のチャレンジテストや迅速脱感作をしてもらう
モノバクタム系抗菌薬との交差反応
- アズトレオナムはペニシリン系抗菌薬との交差反応が稀(0.001%未満)でペニシリン系抗菌薬アレルギー患者で使える唯一のβラクタム
Rev Infect Dis. 1985;7 Suppl 4:S613. - ただしセフタジジムとはR側鎖が一致しているため互いに交差反応が起こりうる
交差反応表
皮膚試験
- Ⅰ型アレルギーを診断するための検査
- 抗原量が少ないプリックテストをまず行い、陰性なら皮内テストを施行
- 費用対効果が高い
- 致死的なアナフィラキシーは稀
- 結果が1時間以内に判明し患者の不快感も少ない
- 皮膚試験が陽性▶即時型アレルギーを疑う(陽性的中率約50%)
- 皮膚試験が陰性または施行できない状況ではチャレンジテストを考慮する
アナフィラキシーは稀ではありますが救急カートなどを準備してから行うほうが安全です
チャレンジテスト
- Ⅰ型、Ⅳ型アレルギーを真に除外するための検査
- アレルギー専門医によって入院の上で行われる
- 粘膜病変を伴うSJSやTEN、DIHS/DRESSなど重症型では行わない
- Ⅰ型アレルギー
-
治療量の1/1000-1/10000の量から始め、30-60分毎に、開始の10倍量を3-5段階に分けて投与し、通常量まで増量する
- Ⅳ型アレルギー
-
治療量の1/100の量から始め、1週間毎に、開始の10倍量を3-5段階に分けて投与し、通常量まで増量する
- 抗ヒスタミン薬やステロイドの先行投与は避ける
- βブロッカーは24時間前に中止する
【参考文献】
- Ann Allergy Asthma Immunol. 2006; 97(5): 681 JAMA. 1993; 270(20): 2456
- J Allergy Clin Immunol. 1981;68(3):171
- ClinRev Allergy Immunol (2012)43: 84-97
- J Allergy ClinImmunol. 1999;103(5 Pt1):918
- 洛和会音羽病院総合内科吉田常恭総合内科・感染症科神谷亨監修 『問診で攻めるペニシリンアレルギー』
- 神奈川県立こども医療センター 小児内科・小児外科 『小児科当直医マニュアル 改定第15版』 診断と治療社
- 伊藤健太 『小児感染症のトリセツREMAKE』 金原出版
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