【猿でもわかる】インフルエンザ〜基本から治療までUpToDate〜

目次

小児インフルエンザ診療は小児科学会の指針を毎年確認せよ

小児科学会から毎年インフルエンザ治療・予防指針が小児科学会HPから出されます。

毎年アップデートされているため確認して診療にあたりましょう。

無料でpdfをダウンロードできます。2024/25シーズンのリンクを以下に貼りますので参考にしてください。

2023/2024シーズンからの変更点

  • バロキサビルマルボキシル(ゾフルーザ®)、ラニナミビル(イナビル®)に関する知見と推奨について更新した
  • 今シーズンより使用可能になった経鼻弱毒生ワクチン(フルミスト®)について追記された
  • バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザ®)には10kg未満の小児には適応がないことを表に反映した

疫学

  • 子供における症候性インフルエンザの推定発症率は約9%1
  • アメリカの子供におけるインフルエンザ関連の外来受診率はこども100人あたり年間6-29人2

経過

  • 潜伏期間:1-4日(平均2日)3
  • 症状は7日間で徐々に軽快するが、特に幼児では咳や易疲労感が数週間持続することがある4
  • A型インフルエンザの排菌は発症後24-48時間でピークとなりその後急激に減少する。5-10日後には気道内でほとんど検出されなくなる5
  • B型インフルエンザの排菌は、発症48時間前と24-48時間後の二峰性6

検査

迅速検査

  • インフルエンザ迅速検査の感度は、発症から検査までの時間で異なる
    発症〜12時間までの感度は35%12〜24時間までの感度は66%24-48時間の感度は92%7
  • 発症から24時間以内にインフルエンザ検査陰性だった場合は翌日再検査を考慮
発症〜12時間12〜24時間24時間〜48時間
感度35%66%92%

治療

治療対象

  • 幼児、基礎疾患がありインフルエンザの重症化リスクが高い患者、呼吸器症状が強い患者には投与が推奨される
  • 発症後48時間以内の使用が原則であるが、重症化のリスクが高く症状が遷延する場合は発症後48時間以上経過していても投与を考慮する。
  • 基礎疾患を有さない患者であっても、症状出現から48時間以内にインフルエンザと診断された場合は各医師の判断で投与を考慮する。
  • 一方で、多くは自然軽快する疾患でもあり、抗インフルエンザ薬の投与は必須ではない。
オセルタミビル
(タミフル®)
バロキサビルマルボキシル
(ゾフルーザ®)
ザナミビル
(リレンザ®)
ラニナミビル
(イナビル®)
ペラミビル
(ラピアクタ®)
新生児・乳児推奨推奨しない
(10kg未満に適応なし)
推奨しない
(吸入困難)
懸濁液は吸入可能
推奨については本文参照
他剤の使用が困難な時に考慮
幼児
(1歳〜5歳)
積極的には推奨しない多くの場合は吸入困難
小児
(6歳〜11歳)
B型には使用を考慮する吸入可能な場合に限り推奨
小児
(12歳以上)
推奨推奨
呼吸器症状が強い・呼吸器疾患がある場合重症例はエビデンス不足要注意
(重症例はエビデンス不足)
インフルエンザ薬の適応一覧
スクロールできます
オセルタミビル
(タミフル®)
バロキサビルマルボキシル
(ゾフルーザ®)
ザナミビル
(リレンザ®)
ラニナミビル
(イナビル®)
ペラミビル
(ラピアクタ®)
適応すべての症例に推奨
生後2週以降の新生児乳児の適応あり
6-11歳のB型
12歳以上には推奨
6歳以降で吸入可能で、呼吸器疾患でない、呼吸器症状が強くない場合に推奨6歳以降で吸入可能で、呼吸器疾患でない、呼吸器症状が強くない場合に推奨他剤の使用が困難なときに考慮(入院例・重症例)
◯生後1ヶ月以降の乳児の適応あり
剤型ドライシロップ(3%)
カプセル(75mg)
錠剤(10mg、20mg)
顆粒(2%=1包:10mg)
吸入吸入点滴
用法・用量【幼小児】
4mg/kg/日 分2
(最大量 150mg/日)

【新生児・乳児】
5mg/kg/日 分2
【12歳以上】
40mgを単回内服

【80kg以上】
80mgを単回内服

【10kg〜19kg】10mg
【20kg〜39kg】20mg
【40kg〜】40mg
1回10mg1日2回吸入【10歳未満】
20mgを単回吸入

【10歳以上】
40mgを単回吸入
10mg/kg 
15分以上かけて単回投与
最大量:600mg
投与期間5日間単回5日間単回症状に応じて連日反復投与
副作用嘔吐、異常行動異常行動
血便、鼻出血、血尿
ワルファリンと併用注意
気管支攣縮気管支攣縮
注意点体重2,500g未満の児or生後2週未満に対する安全性は確立未低出生体重児、新生児、乳児に対する安全性は確立未適切に経口投与できると判断された場合にのみ検討喘息など呼吸器系の基礎疾患がある児には推奨されない
乳タンパクを含むため乳アレルギー児には注意
喘息など呼吸器系の基礎疾患がある児には推奨されない
乳タンパクを含むため乳アレルギー児には注意
低出生体重児、新生児の安全性は確立未
インフルエンザ薬の概要一覧
YouDocの1st chice

オセルタミビル(タミフル®) 

【幼小児】4mg/kg/日 分2 5日間  最大量 150mg/日
【新生児・乳児】5mg/kg/日 分2 5日間

YouDocの2nd chice

ラニナミビル(イナビル®)

【10歳未満】20mgを単回吸入
【10歳以上】40mgを単回吸入

入院症例

ペラミビル(ラピアクタ®)10mg/kg 15分以上かけて単回投与  最大量:600mg

ゾフルーザ®の有効性について

以下、小児科学会2024/25 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針より抜粋

有効性に関する情報 バロキサビル マルボキシル(以下同薬)の抗ウイルス作用や臨床的効果については、インフルエンザに罹患した12歳以上の健常な小児および成人を対象としたランダム化比較試験が2018年に報告され、同薬はプラセボと比べて有熱期間の短縮が確認されている。以降、12歳未満の小児に関する治験や臨床研究の結果が報告され、国内外で概ねノイラミニダーゼ阻害薬と同程度以上の効果や安全性が示されている。小児および成人を対象とした26の試験(11,897例)を検討としたシステマティックレビューおよびネットワークメタアナリシスによると、インフルエンザ罹病期間についてはザナミビル投与群が最も短かったものの、同薬はインフルエンザ関連合併症(肺炎、気管支炎、中耳炎、その他)の発生率および有害事象(嘔気、嘔吐)の発生率が最も低かったことが示されている。更に小児を含む339,007人の健康保険組合のデータベースを用いた検討では、同薬投与群はオセルタミビルやザナミビル投与群より入院の頻度が低いことが確認されている。また、B型インフルエンザウイルスに対する同薬の効果については、ノイラミニダーゼ阻害薬に比べて、有熱期間が比較的短いとの報告も複数存在する。更に、予防投与は小児を含む家族内感染を減らす効果も示されている。上記のデータは、同薬についてはノイラミニダーゼ阻害薬と同等以上の臨床的有用性を示唆するものであり、費用対効果に優れている可能性が米国、オランダ、中国など複数の国の分析からは報告されている。また、家庭内伝播に関する検討では、同薬投与4 群はオセルタミビル投与群に比べて2次伝播発生率が41.8%低く、12歳未満児が発端者であった場合も45.8%低いことが確認された。

小児科学会の総合的判断

上記のように、同薬の使用経験と有効性は集積され、小児を含めて他の薬剤に対する優位性を示唆するデータが蓄積されつつある。特にB型インフルエンザについてはオセルタミビルと比べ有熱期間が短いことが複数の報告で確認されている。一方、治験の段階から、治療中に変異ウイルスが出現することは明らかとなっており、特に若年の小児ではその傾向は顕著であった。また、2018/19 シーズンにおいては使用頻度の多い国内を中心に薬剤耐性ウイルスの出現も報告されていたため、当委員会では更なるデータの蓄積と検証まで、同薬の積極的推奨を控えてきた。その後、世界的にインフルエンザの流行を認める中で同薬が使用されてきたが、サーベイランスでは薬剤耐性ウイルスの明らかな増加を認めず、濃厚接触が想定される家庭内でも2次伝播のリスクは高くはないと考えられた。また、B型インフルエンザウイルスについては低感受性ウイルスの出現は稀である。 上記の事を踏まえて、

  • 12 歳以上の小児のインフルエンザに対して抗インフルエンザを投与する場合は、同薬を他剤と同様に推奨する。特にB型インフルエンザに対しては使用を考慮する。
  • 6 歳から11歳の小児については、B型インフルエンザに対しての使用を考慮する。情報の蓄積を行いながら慎重に適応を検討することを提案する。
  • 5 歳以下の小児では耐性変異を有するウイルスの排泄が遷延する可能性があり、また、2024 年10月27 日時点では20 kg未満の小児に対する顆粒製剤の使用は承認されておらず、錠剤の服薬は困難と考えるため、同薬の積極的な使用を推奨しない。B型インフルエンザウイルス感染例については、剤型適応の可否を判断した上での仕様も考慮する

予防接種

小児科学会は『インフルエンザワクチンはインフルエンザの発症を予防する効果があり、学校での欠席日数を減らす効果も報告されている。また、ワクチン接種により、インフルエンザによる入院を減らした報告もある。 2019/20 シーズン以降は、2020/21、2021/22シーズンにおいて国内では大規模な流行がなかったが、2023/24シーズンからはインフルエンザ患者が増えており、日本小児科学会はインフルエンザワクチンの接種を推奨する。』という立場を取っている

予防接種の効果

  • Tom Jeffersonらは3-16歳のこどもにおける予防接種によってインフルエンザ罹患を18%-4%と低下させた(中等度のエビデンス)と報告している8
  • H Keipp Talbotらは2011-2012インフルエンザ〜シーズンにおいて、予防接種によって入院率を64%から35%に下げたと報告している9
  • 近年のに日本における6歳未満の小児におけるインフルエンザワクチンの有効性はA型H1N1は56-65%、A型H3N2は37-67%、B型は60%である10

経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(フルミスト®)

  • 2003年に初めて米国で承認され、2023年4月時点で36の国で承認されている
  • 小児にとってワクチンに伴う痛みは重大な懸念事項であり痛みの軽減には重要な意義がある
  • 日本では長年未承認のままであったがようやく2023年3月に承認がなされ、実際の接種が2024/2025シーズンから開始される

日本小児科学会2024/25シーズンインフルエンザ治療・予防指針では以下のような使用方針を示している

  • 2歳〜19歳未満に対して、不活化インフルエンザHAワクチンまたは経鼻弱毒生インフルエンザワクチンのいずれかのワクチンを用いたインフルエンザ予防を同等に推奨するが、特に喘息患者には不活化インフルエンザHAワクチンの使用を推奨する。LAIVは飛沫又は接触によりワクチンウイルスの水平伝播の可能性があるため、授乳婦、周囲に免疫不全患者がいる場合は不活化インフルエンザHAワクチンの使用を推奨する。
  • 生後6か月〜2歳未満、19歳以上、免疫不全患者、無脾症患者、妊婦、ゼラチンアレルギーを有する者に対しては不活化インフルエンザHAワクチンのみを推奨する
適応年齢

2歳〜19歳未満

接種回数

各シーズン 1回 ※米国では8歳までの小児は4週間あけて2回接種を推奨

用法・用量

0.2mLを1回(左右の鼻腔内に各0.1mLを1噴霧ずつ、合計2噴霧)

副作用

10%以上:鼻閉・鼻漏(59.2%)、咳嗽、口腔咽頭痛
1-10%:鼻咽頭炎、食欲減退、下痢、腹痛、発熱、活動性低下、筋肉痛、インフルエンザ1%未満:発疹、鼻出血、胃腸炎、中耳炎
頻度不明:顔面浮腫、蕁麻疹、ミトコンドリア脳筋症の症状悪化

接種不適当者

①明らかな発熱を呈している者
②重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
③本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者
④明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者
⑤妊娠していることが明らかな者
⑥上記に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者

注意事項
  • 他のワクチンと同時接種は可能

出席停止

学童以降:発症した日から5日経過し、かつ解熱から2日経過するまで
乳幼児:発症した日から5日経過し、かつ解熱から3日経過するまで
※発症日を0日目としてカウントする

明石市ホームページより引用

小児科のオススメ教科書

小児診療でcommon diseaseの診療にあたるときはコレに限ります
日常臨床で一番使用していると言っても過言ではないです。

専攻医などがまず調べたいことがほとんど書いてあります
引用文献もしっかり記載があるため深く勉強するときにも役立ちます。
お値段もお手頃です。
もちろんm3も医書も電子書籍があるので調べるときもスピーディーです。

他の小児科のおすすめ教科書も紹介しているので是非御覧ください


【参考文献】

  1. UpToDate: Seasonal influenza in children: Clinical features and diagnosis. ↩︎
  2. UpToDate: Seasonal influenza in children: Clinical features and diagnosis. ↩︎
  3. UpToDate: Seasonal influenza in children: Clinical features and diagnosis ↩︎
  4. UpToDate: Seasonal influenza in children: Clinical features and diagnosis ↩︎
  5. UpToDate: Seasonal influenza in children: Clinical features and diagnosis ↩︎
  6. UpToDate: Seasonal influenza in children: Clinical features and diagnosis ↩︎
  7. Keitel K, et al.: Performance characteristics of a rapid immunochromatographic assay for deletion of pandemic influenza A(H1N1) virus in children. Eur J Pediatr. 2011; 170: 511-517 ↩︎
  8. Jefferson T, Rivetti A, Di Pietrantonj C,et al. Vaccines for preventing influenza in healthy children. The Cochrane database of systematic reviews 2018;2:Cd004879. ↩︎
  9. Talbot HK, Zhu Y, Chen Q, et al. Effectiveness of influenza vaccine for preventing laboratory-confirmed influenza hospitalizations in adults, 2011-2012 influenza season. ↩︎
  10. 廣田良夫, 他:ワクチンの有効性・安全性評価とBPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究. 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)分担研究報告書, 2017 ↩︎
  • 岡本光宏 『めざせ即戦力レジデント!小児科ですぐに戦えるホコとタテ』 診断と治療社
  • 神奈川県立こども医療センター 小児内科・小児外科 『小児科当直医マニュアル 改定第15版』 診断と治療社
  • 佐和貞治 『KPUM 小児ICUマニュアル Version8』 永井書店
  • 青山和義 『見える!できる!気管挿管 写真・イラスト・動画でわかる手技のコツ』 羊土社
  • 神奈川県立こども医療センター 『新生児診療マニュアル 第6版」 東京医学社
  • 東京大学医学部小児科 『東大病院新生児診療マニュアル』 診断と治療社
  • 日本小児泌尿器科学会 『小児泌尿器科学』
  • 島田憲次『小児泌尿器疾患診療ガイドブック』
  • 西尾英紀「尿道下裂-尿道下裂に対するファーストタッチ」『臨床泌尿器科』77巻1号 
  • 田中太平 「新生児の正常・異常みきわめブック」
  • 伊藤健太 『小児感染症のトリセツREMAKE』 金原出版
  1. UpToDate: Seasonal influenza in children: Clinical features and diagnosis. ↩︎
  2. UpToDate: Seasonal influenza in children: Clinical features and diagnosis. ↩︎
  3. UpToDate: Seasonal influenza in children: Clinical features and diagnosis ↩︎
  4. UpToDate: Seasonal influenza in children: Clinical features and diagnosis ↩︎
  5. UpToDate: Seasonal influenza in children: Clinical features and diagnosis ↩︎
  6. UpToDate: Seasonal influenza in children: Clinical features and diagnosis ↩︎
  7. Keitel K, et al.: Performance characteristics of a rapid immunochromatographic assay for deletion of pandemic influenza A(H1N1) virus in children. Eur J Pediatr. 2011; 170: 511-517 ↩︎
  8. Jefferson T, Rivetti A, Di Pietrantonj C,et al. Vaccines for preventing influenza in healthy children. The Cochrane database of systematic reviews 2018;2:Cd004879. ↩︎
  9. Talbot HK, Zhu Y, Chen Q, et al. Effectiveness of influenza vaccine for preventing laboratory-confirmed influenza hospitalizations in adults, 2011-2012 influenza season. ↩︎
  10. 廣田良夫, 他:ワクチンの有効性・安全性評価とBPD(vaccine preventable diseases)対策への適用に関する分析疫学研究. 厚生労働行政推進調査事業費補助金(新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業)分担研究報告書, 2017 ↩︎
よければシェアをお願いします
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次