テトラサイクリン系抗菌薬(ミノサイクリンなど)は8歳未満の小児には歯牙黄染のリスクがあるため、原則使用しないことが原則とされています。
学生のときの講義でも8歳未満には使用しないことと教えられた人も多いと思います。
ではなぜ8歳未満なのでしょうか?歯牙黄染の機序は?どれくらいの頻度で起きる?歯牙黄染が起きると治る?
意外と答えられない医者も多いと思います。
今回はテトラサイクリン系抗菌薬による歯牙黄染について解説していきます。
歯牙黄染の機序
8歳未満は永久歯の形成期です。
テトラサイクリンが歯牙の主成分であるヒドロキシアパタイトカルシウムとキレートが結合し沈着し、そこに紫外線が当たると変色します。
この着色は低年齢時は淡黄色ですが、年齢の増加に伴い黄色から褐色に変化します
(自然光によるテトラサイクリンの酸化が原因と考えられている)
歯牙黄染の頻度
- ミノサイクリンによる歯牙黄染は3-6%に起きる1
- テトラサイクリンがよく使用されていて1960-1970年台生まれの人に多く、最大推定罹患率は20%と言われているようです。
歯牙黄染の程度
テトラサイクリン歯の重症度は4段階に分けられます。
1度
- 淡黄色、褐色、灰色で一様に変色
- 縞模様(−)
2度
- 1度よりも色が濃い
- 縞模様(−)
3度
- 濃い灰色、青味がかった灰色
- 縞模様(+)
4度
- 全体的に着色が強い
- 縞模様(+)
3度や4度は誰しもがコンプレックスになると思いませんか?
テトラサイクリン歯による歯牙黄染を正直甘くみていた人も多いと思いますが、頭にしっかり焼き付けておきましょう。
歯牙黄染の治療
でも最近はホワイトニングも流行ってるし、
もしテトラサイクリン歯になってもどうとでもなりますよね?
それが違うんです。
流行りのホワイトニングでも効果はあまり期待できないんです。
ホワイトニング
- オフィスホワイトニングは過酸化水素を主成分とした薬剤を歯に塗り、光を当てて歯の色を白くする
- ホームホワイトニングは過酸化尿素を主成分としたジェルを塗ったマウスピースを装着する
- 軽度のテトラサイクリン歯なら白くなる
- 重度のテトラサイクリン歯は効果はあまり期待できない
ホワイトニング専門のHPでも縞模様は残ると明言されている - 効果が期待できるホワイトニングの相場は10-15万円くらい
ラミネートベニア
- 歯の表面を削り、白いセラミックのチップを歯の表面に貼り付ける
- 短期間で見た目を確実に改善できる
- 1本あたり5万円~18万円程度が相場であり、値段が高い
確実に効果ができるラミネートベニアは非常に高価です。普通は手が出せないでしょう。歯の色が気になりだす高校生や大学生はもちろん手が出せませんよね。親にお願いするのも無理でしょう。
米国ではドキシサイクリンは全年齢に使用可能
- ミノサイクリンはその他のテトラサイクリン系抗菌薬より歯や骨などのコラーゲン組織に沈着しやすい。また口腔内分泌物に高濃度のミノサイクリンが溶け出し、口腔内細菌などによって酸化され、エナメル質に沈着するため、どの年齢でも歯牙着色が起こると考えられている。
- しかし、ドキシサイクリン(ビブラマイシン®)は歯牙着色が問題となるテトラサイクリンに比べ、ドキシサイクリンはカルシウムの含有量が少ないため、最近では現行の推奨治療量でも短期間投与であれば、歯牙着色が起こらないという報告も増えている。
- AAP(米国小児科学会)は「患者の年齢に関係なく、21日以内のドキシサイクリン投与は使用可能である」というスタンスを取っている。
ドキシサイクリンの用法・用量
UpToDate:2-4 mg/kg/日分2 (max 200 mg/kg/日) 7日間
添付文書: 初日200mg/日分2、2日目以降100mg/日 分1、期間言及なし
Lexicomp小児:2-4 mg/kg/日分2 10日間
Lexicomp成人:200mg/日分2、5日間〜
日本小児科学会2013提言:言及なし
Red Book 2021-2024:投与量や期間の言及なし
日本で内服使用できるテトラサイクリン系はドキシサイクリンとミノサイクリンだけです。
呼吸状態など全身状態が不良な8歳未満のマクロライド系やトスフロキサシンも効かずテトラサイクリン系を使用したい場合は、ミノサイクリンではなくドキシサイクリンを日本でも使っていきたいですね。
ただ、ドキシサイクリンはあまり薬局などに置いてないことも多く、今はまだ処方しづらい感覚を持っています。
8歳未満にテトラサイクリンは原則控える!
若い世代の先生は学生の講義やテストでテトラサイクリンは小児には歯牙黄染があるから注意してくださいと口酸っぱく言われてきたので禁忌に近いくらいに考えている人が多いです。逆に上の先生方の方がテトラサイクリン歯を軽く考えている先生が多いと感じます。
歯の着色で大きなコンプレックスや最悪いじめの対象になることもあります。
そして簡単に治せないのがテトラサイクリン歯のやっかいな所です。
使用後すぐに変色するわけではないので、テトラサイクリン歯を軽視して処方した医者はその後テトラサイクリン歯に悩む患者のことを気にすることもないわけです。
多分大丈夫と不必要な場面で処方するのは非常に無責任だと感じませんか?
呼吸状態が悪く速やかに効かせたい場面などはもちろん保護者に同意の上で使うことはありますが、マイコプラズマでそういう場面はそう多くはありません。そもそもself limitedな疾患ですし、マクロライド系、キノロン系など使っているうちに改善が見られる場合はほとんどです。安易に8歳未満にテトラサイクリンを使用するのは控えましょう。
小児感染症のオススメ教科書
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私は何度この参考書で調べたことでしょうか。日常臨床で一番使用していると言っても過言ではないです。
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【参考文献】
- Andrés R Sánchez, et al.Tetracycline and other tetracycline-derivative staining of the teeth and oral cavity. Int J Dermatol. 2004 Oct;43(10):709-15. ↩︎
- 岡本光宏 『めざせ即戦力レジデント!小児科ですぐに戦えるホコとタテ』 診断と治療社
- WHITE ESSENSE 公式ホームページ
- 伊藤健太 『小児感染症のトリセツREMAKE』 金原出版
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