【猿でもわかる】ITP:小児免疫性血小板減少症

総合病院に勤務しているとITPは年に1-2例経験します。
典型的なITPであれば大学病院やこども病院などではなく、市中の病院で診断・治療することが多いのでマスターしておきましょう。

目次

まずは小児ITPガイドラインをおさえよう

小児におけるITPのガイドラインが無料でpdfを見れるのでこれをみて診療を行いましょう

概要

病態

  • B細胞から産生される抗血小板抗体による血小板の破壊と産生障害により血小板減少をきたす自己免疫性疾患
  • 血小板膜蛋白に対する自己抗体により、脾臓における血小板破壊が行進する

病因

  • 小児では先行感染を伴うことが多く、ウイルス感染などが契機となる

疫学

  • 日本小児血液・がん学会の疾患登録の脾腫瘍性血液疾患のうち、血小板減少症は年間約400例で、その約95%はITPである
  • 乳児期から思春期までのいずれの時期でも起こるが、0-7歳に多い。

症状

  • 点状出血出血斑などの軽い出血傾向が主体
  • 女児では過多月経をきたすことがある
  • 鼻出血
  • 入院加療や輸血を必要とする重症出血は約3%1
  • まれに消化管出血や頭蓋内出血(0.2-0.8%程度23
  • 頭蓋内出血患者の40-50%が死亡または神経学的後遺症をきたす4
    血小板数<2万/μLで頭部外傷や血尿を合併する例に多い5

分類

  • 新規診断  診断〜3ヶ月未満
  • 持続性  3ヶ月〜12ヶ月未満
  • 慢性  12ヶ月以上

経過

  • 小児期発症のITPは6ヶ月〜1年以内に自然寛解する例が多く、慢性化するのは約20-25%67
  • 2年後の血小板数が2万/μL未満であるのは4%程度8
  • 慢性化は10-11歳以上の年齢の高い患者に多い

検査

  • 診断に特異的な検査はなく除外診断
  • 典型的小児ITPの診断に骨髄検査は必須ではない
  • 白血病骨髄不全症(再生不良性貧血や骨髄異形成症候群など)や先天性血小板減少症を常に念頭に置く
  • 肝脾腫がある場合や赤血球、白血球の数的、形態的異常を有する非典型例では骨髄検査を実施する
  • 血小板関連IgG(PAIgG)網状血小板はITPに特異的ではなく、測定は必要ではない
  • 抗核抗体などの自己抗体スクリーニングは小児ITP前例に行う必要はない
  • 年齢が高い慢性ITPの女児ではSLEの発症に注意が必要であり抗核抗体を測定する
  • ITPでは幼若血小板比率(immature platelet fraction:IPF)は基準値より高いが、先天性巨大血小板症はITPの2-5倍高値
初期検査
  • 血算IPF目視を入れる)
  • 一般生化学(血液腫瘍鑑別にUALDHを入れる)
  • 凝固(他の易出血性をきたす疾患をr/o)
  • 尿検査(血尿がないか確認)
  • (PA-IgG)※ガイドラインには必要でないとされているが施設によっては提出する所もある

骨髄検査を省略してITPと診断するPoint

  • 血小板減少(10万以下/μL)がある
  • 白血病・骨髄不全症らしさがない
    肝腫大・脾腫・顔面蒼白・発熱などの症状
     赤血球・白血球の数的 or 形態的異常LDH高値尿酸高値
  • 先天性血小板減少症らしさがない
    出生時からの易出血症状家族歴、以前の血小板数などを参考にする

遺伝性血小板減少症を疑うときのポイント

  • 血小板減少症の家族歴がある
  • 血小板減少症と出血傾向以外の臨床症状がある
  • 血小板サイズ、塗抹標本所見に異常がある
  • ITPの治療に不応性である
The Japanese Journal of Pediatric Hematology/Oncology vol. 58(3): 253–262, 2021より引用
  • 大型血小板はITPでも10%程度みられるが、先天性巨大血小板症では30%以上と比率が多い

抗血小板抗体について

  • 抗血小板抗体にはPA-IgG:Platelet associated-IgG(血小板結合免疫グロブリン)とPB-IgG:Platelet binding-IgG(血小板結合性免疫グロブリン)がある
  • PA-IgGは血小板表面に結合している抗体を測定している
  • PB-IgGは血清中の血小板抗体を測定している
  • PA-IgGの感度は80%以上と高いが、他の血小板減少をきたす疾患でも上昇する例が多いため特異性は20-30%と極めて低い9
  • 海外ガイドラインではITPの診断に不要かつ不適切な検査とされている
  • PB-IgGITP患者の抗血小板抗体のほとんどは血小板に結合した状態で存在するためPB-IgGの感度は極めて低い
PA-IgGPB-IgG
血小板表面に結合している抗体を測定血小板に結合しうる
血清や血漿中の抗体を測定
スピッツ
特殊スピッツ

生化学
検体量血液 7.5mL
Plt 3万以下の場合
特殊スピッツで2本を使用し10mL以上
血清0.4mL
所要日数2-4日3-6日
保存方法冷蔵室温
基準値46 ng/107 cells以下陰性
備考平日のみ可
感度:80%以上 特異度:20-30%
他の血小板減少をきたす疾患でも
上昇する
ITPにおけるPBIgGの感度は10%未満
PA-IgGに比べて明らかに低い
SRL総合案内HPより引用
YouDoc

ITPの新規診断場合、血小板は3万を切っていることがほとんどなので、PA-IgGを提出しようとすると10mL以上の血液が必要となるためハードルは高いです。ガイドラインでは不要とされているので提出する意義は乏しいと私は感じます。

重症度

重症度分類によって治療介入の適応を決めることがあるので押さえておきましょう。
治療適応になるのはGrade3からなので重要なのはGrade2と3の違いが重要です
粘膜出血があるかどうか、鼻出血があるかどうかを診察で必ず把握しましょう

修正Buchanan 出血重症度分類

Gradeリスク備考
0新しい出血がまったくない
1軽微少数の点状出血(合計100個以内)and/or
5個以内の出血斑(直径3cm以内)
粘膜出血(−)
2軽症多くの点状出血(合計100個以上)
and/ or
5個以上の大きな出血斑(直径3cm以上)
粘膜出血(−)
3低リスク中等症鼻孔の血痂
痛みのない口腔紫斑
口腔/口蓋の点状出血

臼歯に沿った頬側紫斑のみ、
軽度の鼻出血≦5分
高リスク中等症鼻出血>5分
血尿、血便
痛みを伴う口腔紫斑
著しい月経過多
4重症重い粘膜出血 or 脳、肺、関節などの内出血が疑われ
直ちに医師の診察または介入が必要な場合
5生命を脅かす/致命的確定された頭蓋内出血
または
あらゆる部位での生命を脅かすか致命的な出血

治療

治療介入の目安

  • 治療適応は血小板数ではなく重症度および健康に関連した生活の質(HRQoL)を考慮して決める
  • ガイドラインでは血小板数にかかわらず重症度分類のGrade1 or 2の軽症例は無治療経過観察を推奨している
  • 乳児や歩行が安定しない、ADHDなどで頭部外傷のリスクがある患者月経がある女児などは治療介入を考慮
  • Grade3以上は基本的に入院で治療を開始したほうが無難

1st line

IVIG

免疫グロブリン

IVIG 0.8-1 g/kg 単回 点滴静注

  • 副作用:無菌性髄膜炎、発熱、発疹、アナフィラキシー、血栓症、腎障害、急性腎不全など
  • 無菌性髄膜炎はIVIG施行後24-48時間に出現し5-7日で自然治癒する
  • 通常治療開始3日後くらいから血小板数は増加しはじめ平均7日後最大値に達するが、その後徐々に低下し、血小板数が治療前値より増加している期間2-3週間10

ステロイド

ステロイド

プレドニゾロン 2mg/kg/day 5-7日間

  • 血小板数が3-5万/μL以上になったら速やかに減量する
  • 最長14日までとする
  • 出血症状や血小板数を考慮して4mg/kg/dayまでは増量も可能
  • 血小板数の増加は90%近い症例が2-7日で認め、投与開始後5-7日間PSLの効果判定が可能11
  • 5-7日間のPSL投与後1-2日ごとに1/2量に減少すれば14日以内に中止可能

2nd line

  • 私の施設ではIVIG投与し、反応があったが効果がやや乏しい場合はIVIGの2回目を投与
  • IVIGの反応が乏しい場合は、骨髄検査をしてITPで矛盾しない所見の場合はステロイドを選択。
  • それ以上の治療は高次医療機関に紹介しています。

1st lineに不応の場合には専門機関に依頼したほうがよいと個人的には思います。

新規ITP患者にステロイドとIVIGのどちらを選ぶか

①重症感染症や糖尿病の合併、水痘患者との接触歴などステロイドが禁忌である場合、粘膜出血のある新規ITP患者にはIVIGを推奨する グレード:2D

②緊急の外科手術前や重症出血(Grade4以上)など速やかに血小板数を増加させたいときにはIVIGを推奨 グレード:1B

③その他の粘膜出血のある(Grade3)新規診断ITP患者には、ステロイドまたはIVIGを推奨し、推奨度に差をつけない グレード:2A

IVIGステロイド
効果発現早いやや遅い
長期的な転機ステロイドと変わらないIVIGと変わらない
副作用重い軽い
治療場所入院のみ入院 or 外来
値段高い安い

小児ITPの診療フローチャート

小児免疫性血小板減少症
診療ガイドライン2022年版より引用

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【参考文献】

  1. Ansari Sh, et al. Rituximab efficacy in the treatment of children with chronic immune thrombocytopenic purpula. Peciatr Hematol Oncol 31: 555-562,2014 ↩︎
  2. Matsubara K, et al. Long-term follow-up of children with refractory immune thrombocytopenia treated with rituximab. Int J Hematol 99: 429-436, 2014 ↩︎
  3. Ay Y, et al. Retrospective analysis of rituximab therapy and splenectomy in childhood chronic and refractory immune thrombocytopenic purpura. Blood Coagul Fibrinolysis 27: 431-435, 2016 ↩︎
  4. Matsubara K, et al. Long-term follow-up of children with refractory immune thrombocytopenia treated with rituximab. Int J Hematol 99: 429-436, 2014  ↩︎
  5. Ay Y, et al. Retrospective analysis of rituximab therapy and splenectomy in childhood chronic and refractory immune thrombocytopenic purpura. Blood Coagul Fibrinolysis 27: 431-435, 2016 ↩︎
  6. Citak EC, et al. Treatment results of children with chronic immune thrombocytopenic purpura(ITP) treated with rituximab. J Trop Pediatr Int 54: 524-527, 2012. ↩︎
  7. Stiakaki E, et al. Idiopathic thrombocytopenic purpura in childhood: twenty yearus ofexperience in a single center. Pediatr Int 54: 524-527, 2012 ↩︎
  8. Stiakaki E, et al. Idiopathic thrombocytopenic purpura in childhood: twenty yearus ofexperience in a single center. Pediatr Int 54: 524-527, 2012 ↩︎
  9. 桑名正隆:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の診断. 血栓止血誌 2018; 29(6): 625-629 ↩︎
  10. 森麻希子「ITPに対する薬の使い方 免疫グロブリン大量療法」『小児科診療』2024年5号 ↩︎
  11. Blanchette VS, et al. A prospective, randomized trial of high-dose intravenous immune globulin G therapy, oral prednisone therapy, and no therapy in childhood acute immune thrombocytopenic purpura. J Pediatr 123: 989-995, 1993 ↩︎
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