概要・疫学
- ネフローゼ症候群は糸球体毛細血管障害により、高度蛋白尿と低アルブミン血症、全身性浮腫をきたす病態の総症
- 小児ネフローゼ症候群の約90%が特発性ネフローゼ症候群(一次性ネフローゼ症候群)
- 特発性ネフローゼ症候群のうち約80%が微小変化型
- 1年間に小児10万人に6.5人が発症⇐欧米に比べて約3倍
- いずれの国・地域においても、男児が多く、女児の1.1-2倍の頻度
定義
- 持続する高度蛋白尿(夜間蓄尿で40 mg/hr/m2 or 早朝尿で尿蛋白クレアチニン比≧2.0 g/gCr)
- 低Alb血症(血清Alb≦2.5 g/dL)
①、②を同時に満たし、明らかな原因疾患がないものを小児特発性ネフローゼ症候群と定義
【成人ネフローゼ症候群診断基準】
①蛋白尿:3.5g/日以上が持続する(随時尿で尿TP/尿Cre≧3.5もこれに準ずる)
②低Alb血症:血清Alb≦3.0
③浮腫
④脂質異常症(高LDLコレステロール血症)
※①、②の両所見を認めることが必須条件
※浮腫は必須条件ではないが、重要な所見
※脂質異常症は必須条件ではない
※卵円形脂肪体は診断の参考となる
用語の定義
一次性(原発性) ネフローゼ症候群 | 原発性糸球体腎炎に伴うネフローゼ症候群 |
特発性 ネフローゼ症候群 | 一次性ネフローゼ症候群のふち原因が不明のもの |
二次性 ネフローゼ症候群 | 明らかな原因疾患を有し、それに由来するネフローゼ症候群、遺伝子異常によるネフローゼ症候群を含む |
完全寛解 | 試験紙法で早朝尿蛋白陰性を3日連続して示すもの or 早朝尿で尿TP/尿Cr<0.2 g/gCrを3日連続で示すもの |
不完全寛解 | 試験紙法で早朝尿蛋白1+以上 or 早朝尿で尿TP/Cr≧0.2 g/gCrを示し、かつ血清Alb≧2.5 |
再発 | 試験紙法で早朝尿蛋白 3+以上(尿TP/Cr≧2.0 g/gCr)を3日連続して示すもの |
ステロイド感受性 ネフローゼ症候群 | ステロイド連日投与開始後4週間以内に完全寛解するもの |
ステロイド抵抗性 ネフローゼ症候群 | ステロイドを4週間以上連日投与しても、完全寛解しないもの |
頻回再発型 ネフローゼ症候群 | 初回寛解後6ヶ月以内に2回以上再発 or 任意の12ヶ月以内に4回以上再発したもの |
ステロイド依存性 ネフローゼ症候群 | ステロイド減量中 or ステロイド中止後14日以内に2回連続して再発したもの |
難治性 ネフローゼ症候群 | ステロイド感受性のうち、標準的な免疫抑制薬治療では寛解を維持できず頻回再発型やステロイド依存性のままで、ステロイドから離脱できないもの(難治性頻回再発型・ステロイド依存性ネフローゼ症候群) ステロイド抵抗性のうち、標準的な免疫抑制薬治療では完全寛解しないもの(難治性ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群) |
腎生検の適応
- ネフローゼ症候群発症時に①1歳未満 ②持続的血尿、肉眼的血尿 ③高血圧、腎機能障害 ④低補体血症 ⑤腎外症状(発疹、紫斑など)を認める場合には微小変化型以外の組織型の可能性があり、治療開始前に腎生検による組織診断を考慮する
- ステロイド抵抗性を示す場合、腎生検による組織診断を行ったうえで治療方針を決定する
- カルシニューリン阻害薬を長期に投与する場合には、血液検査で明らかな腎機能障害を認めなくても、投与開始後定期的(初回は2-3年後)に腎生検を行い、腎毒性の有無を評価することが望ましい
予後
- 小児特発性ネフローゼ症候群患者の約40%は頻回再発型ネフローゼ症候群やステロイド依存性ネフローゼ症候群に至る
- 小児特発性ネフローゼ症候群の10-20%がステロイド抵抗性ネフローゼ症候群であり、免疫抑制薬に反応しない場合の10年腎生存率は30-40%と不良である
遺伝学的検査
- 小児期発症ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群患者のうち、約30%の患者においてはポドサイト関連の蛋白をコードする遺伝子の異常が検出される
- さらに生後3ヶ月以内に発症する先天性ネフローゼ症候群患者においてはそのほとんどの場合遺伝子異常により発症する
- 一方発症年齢が高くなるにつれ、既知の遺伝子異常の検出割合は低下する
- 遺伝子異常に伴うステロイド抵抗性ネフローゼ症候群においては、そのほとんどですべての免疫抑制薬に抵抗性を示すため、治療方針の決定に有用
- 遺伝子異常に伴うステロイド抵抗性ネフローゼ症候群患者が末期腎不全に至り腎移植を施行した場合、ネフローゼ症候群の移植後再発を認めることはほとんどなく、その予防のための過剰な医療を避けることが可能となる
- 原因遺伝子により腎予後に関する予測が可能となる場合がある
- 一部の遺伝子異常により、腎外合併症を伴う可能性があり、その予見が可能となる
- 原因遺伝子の同定により、常染色体優性or劣性などの遺伝形式が判明するため、次子や子孫への遺伝の可能性の推定など遺伝カウンセリングのための重要な情報を得ることが可能となる
- ADCK4, COQ2, COQ6遺伝子などに異常を認める場合はコエンザイムQ10による治療が有効で尿蛋白を減少させることができるなど、特異的治療法の選択が可能となる場合がある
治療総論
- 小児特発性ネフローゼ症候群の多くが微小変化型であるため、初発・再発時ともにステロイド(プレドニゾロン)を第一選択薬として治療を開始する
- 小児頻回再発型ネフローゼ症候群や小児ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群では免疫抑制薬による治療が検討される
- 各薬剤の処方にあたっては、身長に応じた標準体重ならびに体表面積を用いる
- 頻回再発型orステロイド依存性ネフローゼ症候群の場合にはステロイドの長期反復使用による副作用を軽減する目的で、免疫抑制薬の併用が検討される
- 小児特発性ネフローゼ症候群の患者は、原病による浮腫やステロイドによる副作用(食欲亢進、中心性肥満)により、プロポーションの変化をきたしている場合が少なくないため、実体重ではなく身長に応じた標準体重or体表面積を使用する
初発時・再発時の治療
小児特発性ネフローゼ症候群の初発時治療において、プレドニゾロンは8週間治療(ISKDC法)と12週間以上治療(長期漸減法)のどちらが推奨されるか
小児特発性ネフローゼ症候群の初発時治療は8週間治療(ISKDC法)を選択することを推奨する 推奨グレード 1B(一致率100%)
- 60 mg/m2/day or 2 mg/kg/day(最大 60 mg/day)分1-3 連日 4週間
- 40 mg/m2/day or 1.3 mg/kg/day(最大 40 mg/day)分1 隔日 4週間
- 60 mg/m2/day or 2 mg/kg/day(最大 60 mg/day)分1-3 連日
※少なくとも尿蛋白消失確認後3日目まで、ただし4週間を超えない - 60 mg/m2/day or 2 mg/kg/day(最大 60 mg/day)分1 隔日 2週間
- 30 mg/m2/day or 1 mg/kg/day(最大 30 mg/day)分1 隔日 2週間
- 15 mg/m2/day or 0.5 mg/kg/day(最大 15 mg/day)分1 隔日 2週間
※②以下の減量法は主治医の裁量にゆだねられる部分が大きく、長期漸減法も適宜選択する
- ステロイドの減量方法は大人では連日減量が一般的だが、小児ではステロイドによる成長障害を避けるため、隔日投与での減量を原則とする
- ステロイド連日投与時、ガイドライン2013では分3とされていたが、KDIGOガイドラインでは分1と記載されている
再発時治療では分1と分3に効果の差はなく、むしろ分1ではステロイド副作用が少ないと報告されている
初発時治療での比較試験の報告はない
隔日減量後はステロイドの副作用を最小限とするため、従来どおり分1が望ましい - 腸管浮腫による嘔吐・腹痛により内服が困難な場合は、一時的に同量の静注ステロイドを使用してよい
小児頻回再発型・ステロイド依存性ネフローゼ症候群の治療
CQ2)小児頻回再発型・ステロイド依存性ネフローゼ症候群に対して免疫抑制薬は推奨されるか?
シクロスポリン(ネオーラル):CyA, CsA
2.5-5mg/kg/day 分2で開始
以下の血中濃度を目標として投与量を調整する
トラフ値(投与前血中濃度)管理
C2値(投与2時間後血中濃度)管理 600-700 ng/mKLで6ヶ月間、以後450-550 ng/mL
長期に投与する場合は、腎機能障害がなくても腎生検を行い、慢性腎毒性の有無を評価する
- 副作用で最も問題となるのは慢性腎毒性。2年以上の継続でリスクが高くなる
- 多くの患者で投与中止後再発する(シクロスポリン依存性)ことが問題
- 多毛や歯肉腫脹などの美容的な副作用が高頻度に出現するのも特徴
- 感染症、高血圧、可逆性後頭葉白質脳症(PRES)を合併することもある
- 食後よりも食前内服(15-30分前)のほうが吸収が良好かも
シクロホスファミド(エンドキサン):CPA
2-2.5 mg/kg/day(最大100mg)で8-12週間 分1で投与
累積量が300 mg/kgを超えてはならず、投与は1クールのみとする
- 性腺障害、特に男児の無精子症が重要
特に思春期中(Tanner stage2度以上、男児では精巣容量3mL以上に相当)や思春期以後の患者ではリスクが高い
男児で累積投与量が300mg/kgを超えると無精子症のリスクが高くなる - 女児の不妊症は、男児に比べるとリスクは低いとされ、200mg/kg未満で安全、思春期後で300mg/kg以上で生ずるとされる
- 骨髄抑制、特に白血球減少症が32%に生じ頻度が高い
治療中は1-2週間ごとに定期的に血液検査を行い、白血球減少が見られた際には減量もしくは休薬が望ましい
(例:WBC≦4,000の場合は減量、WBC≦3000の場合休薬) - 感染症、脱毛、出血性膀胱炎、肝機能障害、間質性肺炎、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群などが重要
ミゾリビン(ブレディニン):MZR ※適応外使用
7-10 mg/kg/day 分1(高用量)で投与
以下の血中濃度を目標として投与量を調整する
血中濃度ピーク値(C2値 or C3値):3.0 μg/mL以上
- 高尿酸血症に注意
- それ以外の副作用は比較的少ないのが本剤の利点
- 主として腎排泄のため、腎機能障害時は減量が望ましい
- 適応症が「ステロイドのみでは治療困難なネフローゼ症候群(頻回再発型・ステロイド依存性を除く)」となっている
- 添付文章上成人の1日量が150mg/dayであることに注意
ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト):MMF ※適応外使用
副作用により標準的な免疫抑制薬を使用できない場合に投与する
1,000-1,200 mg/m2/day(or 24-36 mg/kg/day、最大 2g/day)分2
- 主な副作用は消化器症状と骨髄抑制
- 催奇形性があるため、思春期以降の女子には避妊の指導が必要
- 投与中止後の再発リスクが高い
タクロリムス(プログラフ):TAC ※適応外使用
副作用により標準的な免疫抑制薬を使用できない場合に投与する
0.1 mg/kg/day 分2で開始
以下の血中濃度を目標として投与量を調整する
トラフ値:5-7 ng/mLで6ヶ月間、以後3-5 ng/mL
- シクロスポリンと類似したカルシニューリン阻害薬
- 腎移植後の免疫抑制薬としてシクロスポリンをしのいで第一選択薬
- シクロスポリンと比較して、多毛、歯肉肥厚といった美容的副作用が少ないことが長所
- 副作用は糖尿病の発症が重要
糖尿病の家族歴がある患者や耐糖能障害の危険因子(肥満など)のある患者は特に注意 - 感染症、膵炎、腎間質線維化も報告あり
- シクロスポリンと同様にマクロライド系抗菌薬など代謝に影響を及ぼす薬剤が多いため、併用薬には十分な配慮が必要
- 一部の柑橘類およびその加工食品は本薬剤の代謝を阻害して血中濃度を上昇させるため、摂取を避ける必要がある
- 上記の治療は小児腎臓病を専門とする医師と連携を行いながら治療を行うのが望ましい
特に適応外使用する薬剤については小児腎臓病を専門とする医師のもとで投与されることが望ましい - 上記の免疫抑制薬を導入する際は、ネフローゼ症候群の寛解後に投与を開始する
- シクロホスファミドの小児頻回再発型ネフローゼ症候群に対する有効性はランダム化比較試験で報告されているが、効果は限定的であるという報告もある
- シクロスポリンは、小児頻回再発型・ステロイド依存性ネフローゼ症候群を対象としたシクロホスファミドとの唯一のランダム化比較試験において、シクロホスファミドと同等の効果が示されている
- ミゾリビンは通常用量では有効性が証明されなかったが、高用量での有効性が示唆された
- ミコフェノール酸モフェチルはシクロスポリンに再発抑制効果は若干劣るが、副作用は許容範囲という結果
- タクロリムスはミコフェノール酸モフェチルと同等
難治性頻回再発型・ステロイド依存性ネフローゼ症候群の治療
寛解期にリツキシマブとして375 mg/m2/回を1週間間隔で計1-4回点滴静注
1回あたりの最大投与量は500mgまで
- 特徴的な副作用は、点滴静注投与開始後24時間以内に発現するinfusion reaction(発熱、嘔吐、悪寒、悪心、頭痛、疼痛、そう痒、発疹、気管攣縮、咳、虚脱感、血管浮腫)
予防のために解熱鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、ステロイドによる前処置を行う - 好中球減少症や無顆粒球症は投与直後だけでなく遅発性にも発現するため注意
- リツキシマブ投与後はCD19を含む血液検査を定期的に行う
- 末梢血B細胞数が枯渇・減少することで、細菌やウイルスによる感染症が発現する可能性があり、小児では特に注意すべき
- 低γグロブリン血症も注意⇨リツキシマブ投与前にはIgGや末梢血リンパ球サブセットを確認し、無症候性免疫不全の状態に陥ってないか確認することが望まれる
また、投与後には定期的にIgG値をあわせて確認し、必要に応じてグロブリン補充を行う - 進行性多巣性白質脳症、B型肝炎のキャリア再活性化に伴う劇症肝炎も重大
⇨B型肝炎ウイルス抗体、肝機能検査もリツキシマブ投与前に行う
ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の治療
シクロスポリン(ネオーラル):CyA, CsA
2.5-5mg/kg/day 分2で開始
以下の血中濃度を目標として投与量を調整する
- トラフ値 100-150 ng/mL(〜3ヶ月目)
- トラフ値 80-100 ng/mL(4ヶ月目〜12ヶ月目)
- トラフ値 60-80 ng/mL(13ヶ月目以降)
- シクロスポリン投与後4-6ヶ月間で不完全寛解以上が得られない場合は治療方針を再検討する
- シクロスポリン投与後4-6ヶ月間で不完全寛解/完全寛解に至る場合は、1-2年間の継続投与を行う
- 低用量ステロイドとの併用療法(PSL 0.5-1.0mg/kg 隔日投与)により寛解率が上昇するため、低用量ステロイドとの併用を考慮する
ステロイドパルス療法
mPSL 20-30mg/kg/回(最大1g)静注 1日1回 3日間連続を1クール
- ステロイドパルス療法によりシクロスポリンの血中濃度が上昇する可能性があり、ステロイドパルス療法中はシクロスポリンの休薬を考慮する
●ステロイドパルス療法の治療例
治療1-3日目:mPSL 20-30mg/kg/day(最大1g) 1-2時間で点滴静注
治療4-7日目:PSL 1.0mg/kg/day 分3 連日投与(最大量40mg/day)
上記を1クールとして2-3クール施行する
※施行する場合は小児腎臓病を専門とする医師に相談することが望ましい
タクロリムス(プログラフ):TAC ※適応外使用
0.1 mg/kg/day 分2で開始
血中濃度をモニタリングしながら投与量を調節する
ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト):MMF ※適応外使用
1,000-1,200 mg/m2/day(or 24-36 mg/kg/day、最大 2g/day)分2
- ネフローゼ状態での免疫抑制療法は、感染症・高血圧などの重篤な合併症や副作用に十分な注意が必要であり、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の治療は小児腎臓病を専門とする医師による治療が望ましい
一般療法
浮腫の管理
- 全身浮腫に対する治療を行う際には、身体診察、血液所見、尿所見、画像診断、生理学的検査などを行い有効循環血漿量ならびに体液分布を評価する
①小児では有効循環血漿量が減少した場合は腹部症状やショックなどの循環不全症状を生じやすいが、一方で体液過剰による諸症状を見落とさないことが重要
②有効循環血漿量減少を疑う⇨FENaの低下、遠位尿細管Na/K exchange indexの上昇、低Na血症の有無、Ht上昇などを検討
③有効循環血漿量増加を疑う⇨画像検査(胸部X線:CTR拡大・胸水・肺水腫、超音波:IVCなど)の評価が必要 - 軽度の浮腫に対しては、治療が不要なことが多く、利尿薬やAlb製剤を安易に使用しない
①難治性で症状を伴う浮腫に対しては、体液分布を評価した上で食塩の制限、利尿薬、Alb製剤を選択して使用
②有効循環血漿量が正常or過剰⇨ループ利尿薬を中心とした利尿薬
Alb製剤と利尿薬の併用はより強い利尿効果が得られるが、肺水腫などの体液量過剰の合併症に注意する
③有効循環血漿量が低下し循環不全症状を呈する場合⇨細胞外液(生理食塩水など10-20mL/kgを30-60分かけて静注やAlb製剤の静注を行う
④薬物療法で改善が望めない浮腫や重症合併症を伴う場合は、小児腎臓病を専門とする医師にコンサルトする - 浮腫の治療に食塩の制限は必要だが、水分制限は原則的に必要ではない
浮腫と有効循環血漿量
- 浮腫の機序:①低Alb血症による血管内膠質浸透圧の低下②遠位尿細管、集合管のepithelial sodium channel(ENac)やNa+-K+ポンプ(Na+-K+ATPase)におけるNa+再吸収の増加③毛細血管透過性の変化による体内での水分不均衡など
- underfilling仮説
-
低Alb血症⇨血管内膠質浸透圧低下⇨血管内から間質へ水・Naが移動し浮腫を生じる
同時に有効循環血漿量が減少⇨RAA系やカテコラミン交換神経系、抗利尿ホルモンが亢進⇨二次的に腎での水・Na再吸収が生じ、さらに浮腫を助長する - overfilling仮説
-
低Alb血症⇨血漿膠質浸透圧は正常or軽度低下⇨心房性Na利尿ペプチドの反応低下などにより一時的な遠位尿細管や集合管でのNa再吸収亢進⇨有効循環血漿量の増加⇨静水圧が上昇して間質へ水が移動し浮腫を形成する。この場合RAA系やカテコラミン交換神経系には変化がない
有効循環血漿量の評価と検査
- 体液状態の把握には、症状やバイタルサイン、体重、腹囲、尿量、血液・尿生化学検査、超音波や放射線などの画像検査、生理学的検査などを総合的に評価数する
- 血清Alb≦1.5-2.0 g/dLで循環不全症状が惹起される
- その際、低Na血症(<135 mEq/L)、Hb上昇(>16 g/dL)や糸球体濾過量低下を示すことがある
- Na/K exchange index(%)=[尿中K濃度/(尿中K濃度+尿中Na濃度)]×100
食事療法
- 浮腫改善を目的とした食塩制限を考慮する
食塩制限の程度は、浮腫の程度と患者の食事摂取量に応じて調整する(以下の基準を上限とする) - 原則として水分制限は行わない
- 腎機能が正常範囲の場合、同年齢の健常小児の栄養所要量に準じたタンパク質を摂取させる
- 年齢に応じたエネルギー量を摂取させる
ステロイド副作用:骨粗鬆症
- ネフローゼ症候群は骨密度の低下や圧迫骨折のリスクとなり得る
- ネフローゼ症候群患者には二重エネルギーX線吸収法(DXA)による骨密度測定を定期的に実施することが望ましい
- ステロイド性骨粗鬆症に対する薬物療法について小児において十分なエビデンスがない
- 小児ステロイド性骨粗鬆症の予防および治療には、ステロイドの減量 or 中断が最も望ましい
ステロイド副作用:成長障害
- ステロイドの隔日投与は成長障害のリスクを軽減させる
ステロイド副作用:眼科合併症
- ステロイド投与中の眼科の定期受診はステロイド白内障を早期の段階で発見し、その進行リスクを抑制する
- ステロイド開始後の眼科の早期受診は、ステロイド緑内障のリスクを軽減する
- ステロイド使用相に腎臓病患者の約10-56%が白内障を呈するとされる
- 緑内障に関してはほとんど眼圧上昇しないとする報告から約20-30%とする報告がある
白内障
- 一般的にPSL 10mg/day以上の使用や1年以上の長期投与になると発症率が高くなる
緑内障
- ステロイド減量・中止とともに眼圧は低下することが多い
- 一般的にステロイド治療開始後、浮腫が軽減し全身状態が安定した段階で早期に眼科を受診させることが望ましい
血栓症
- ネフローゼ症候群に合併する血栓症は小児では約3%
- 特に12歳以上の年長児がハイリスク
- 動脈血栓<静脈血栓が多く、深部静脈血栓症、脳静脈血栓症、肺塞栓症が大多数
- 機序として血小板数の増加、血小板凝集能の亢進、AT-Ⅲなど抗凝固因子の尿中漏出、フィブリノーゲンなど凝固因子の生合成亢進などがある
前2者は動脈血栓の要因、後2者は静脈血栓の要因 - 長期臥床、血液濃縮、高度蛋白尿、感染、血管内カテーテル留置は血栓傾向を加速させるため注意
- 定期的に凝固能を含めて評価する
- 血清Alb<2g/dL、Fib>600mg/dL、AT-Ⅲ<70%⇨血栓の存在に注意して慎重に経過観察する
- 血栓を発見した場合、ネフローゼ症候群以外の血栓症と同様に治療を行う
- 静脈血栓症ではヘパリンをAPTT 60-85秒目標で投与した後、ワーファリンをPT-INR 2-3目標に投与する
高血圧
- ネフローゼ症候群では高血圧を合併することがしばしばある
その原因は病期をもとに整理すると理解しやすい
有効循環血漿量の変化に伴う高血圧を考える
小児特発性ネフローゼ症候群では、underfilling仮説に注目されることが多いが、実際にはoverfillingを呈している小児患者は決して少なくない
PSLの副作用をまず考えるべきであろう
シクロスポリンなどのカルシニューリン阻害薬も高血圧をきたすため注意
頻回のステロイド投与による心筋肥大や脂質異常症あるいはカルシニューリン阻害薬の長期使用による血管内皮障害は投薬中止後も高血圧の原因となりうる
小児特発性ネフローゼ症候群の初発時に高血圧を呈することは極めて珍しい
⇨慢性糸球体腎炎のネフローゼ発症や急性腎障害の合併も鑑別に入れたほうがよい
予防接種と感染予防
- 不活化ワクチン接種は可能であるがステロイドや免疫抑制薬、リツキシマブの投与状況により抗体価獲得に影響があるため接種時期を考慮する
- 生ワクチン接種はステロイド内服中の水痘ワクチン接種以外は禁忌
免疫抑制薬内服中の接種の可能性は現在様々な検討がなされている - 一定の条件を満たすネフローゼ症候群が水痘患者と接触した際には予防対策を行う
- リツキシマブ投与後のニューモシスチス肺炎予防のためのST合剤使用は、現時点では悪性リンパ腫治療時の推奨に準じている
- ①血清IgG・IgAの低下②特異的抗体産生低下③factor Bやfactor Dの減少④ステロイド、免疫抑制薬、リツキシマブの使用により二次性の免疫不全状態であり感染症に罹患しやすく、重症化しやすい
薬剤の使用の有無に関わらず、ネフローゼ状態であることが感染のリスクになる - 予防接種対象年齢期間にネフローゼ症候群が理由でワクチン接種ができなかった場合でも、接種可能な状態になった時点から2年以内であれば、定期予防接種として公費負担で接種可能となった
小児特発性ネフローゼ症候群患者に対する不活化ワクチン
- 不活化ワクチンについては、ステロイドや免疫抑制薬内服中の患者であっても有効かつ安全に接種可能と考えられる
- ただし、抗体獲得率や獲得後の持続期間については以下の点に留意が必要
- 高用量(PSL換算2mg/kg/day以上 or 体重10kg以上の患者は20mg/day以上)のステロイドを使用している場合は抗体産生を妨げる恐れがある
- リツキシマブ投与時の不活化ワクチン接種は、リツキシマブ最終投与の最低6ヶ月よりワクチン接種は可能であるが、免疫学的評価を行ってからが良い
- 免疫抑制薬を開始する際には、可能であれば開始2週間前に接種しておく
- 小児特発性ネフローゼ症候群にみられる細菌感染症のなかで、肺炎球菌が起因菌となる頻度が最も高い
- 腹膜炎の起因菌としても肺炎球菌感染症が多く次いで大腸菌
- CDCやKDIGOガイドラインでは、7価 or 23価の肺炎球菌ワクチン接種や毎年のインフルエンザワクチン接種を推奨している
- 23価ワクチンは接種適応が2歳以上であることや効果持続期間が7価ワクチンと比べて短く、特に高齢者を含め低免疫状態の患者には約5年毎の追加接種が必要
小児特発性ネフローゼ症候群患者に対する生ワクチン
- 免疫抑制薬内服中の患者に対する生ワクチンは有効性、安全性ともに明確なエビデンスは存在しない
- 米国小児科学会は高用量ステロイド使用でなければ生ワクチンは使用可能としているが、日本ではステロイド使用中の水痘以外の生ワクチン接種は禁忌となっている
免疫抑制薬についても添付文書では生ワクチン接種は禁忌とされており、原則として接種すべきではなく、免疫抑制薬を中止後3ヶ月以上経過してからの接種が望ましい
水痘濃厚接触時の感染予防対策
- 免疫低下者がいずれかに該当しない場合(①過去の水痘罹患②問診時すでに発症している③血液検査で十分な免疫を有している④2回ワクチンを接種している)、接触後10日以内であれば、
免疫グロブリン療法:IVIG 400mg/kg 静注 単回投与
投与困難であれば接触後の7-10日後からアシクロビル 80mg/kg/day(最大量3,200 mg/day)分4 or バラシクロビル 60mg/kg/day 分3を7日間予防内服
【参考文献】
- 小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2020
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