鎖肛(直腸肛門奇形)

小児外来には便秘などの排便障害を主訴に受診する小児は非常に多く、家族にとっては日々の生活の悩みの種になることも多い。甲状腺機能低下症などの内分泌疾患やヒルシュスブルング病、直腸肛門奇形(鎖肛)や二分脊椎などの脊髄疾患が隠れていることもある。多くの症例では、肛門部の視診によって新生児期に診断され、治療が開始されるが、新生児期には排便が軟らかいために気づかれず、母乳単独栄養から混合栄養に変更したタイミングや離乳食を開始したタイミングで便秘症を呈して診断に至ることもあり、乳児期になって診断に至る症例も10%以上は存在すると報告されている。こうした疾患を見逃さないように、名前はよく知っているが、実際にはあまり診療経験が少ない鎖肛についてまとめる。

目次

概念

  • 肛門を欠如する病態
  • 肛門を欠損するものから、瘻孔がみられるもの、肛門の位置がずれているものまで様々
  • 外観は正常肛門であっても直腸に狭窄や閉鎖がある場合もあるため、
    “直腸肛門奇形”と呼ぶのが病態を反映した正しい呼称だが、通常は“鎖肛”と呼ばれる

疫学

  • 3000-4000出生に1例で発生
  • 日本では年間約300例の症例登録がある
  • 小児外科領域の新生児疾患のうちで最多
  • 男女比は約3:2

原因

  • 胎生早期(在胎5-9週)における総排泄腔の分離・発育過程における異常

分類

  • 1970年に国際シンポジウムで提唱された国際分類に準じ、日本の直腸肛門奇形研究会の改変が加えられた病型分類を用いることが多い
  • 盲端の高さにより高位、中間位、低位に大別し、瘻孔の有無と場所により細分類される
  • 新生児期の手術方法の選択や、根治術の術式選択に重要なため正確な分類を行う
高位型
  • 直腸盲端または最下端(瘻孔部位)が恥骨直筋群より高い位置にあるもの
  • 鎖肛全体の29%
  • 高位型の中で最も頻度が高いものは直腸尿道瘻
中間位型
  • 直腸盲端と瘻孔が恥骨直筋係蹄内にあり、同係蹄を貫通していないもの
  • 鎖肛全体の11%
  • 直腸盲端と瘻孔は恥骨直筋を肛門側に超えているもの
低位型
  • 直腸盲端と瘻孔が恥骨直筋を肛門側に超えているもの
  • 鎖肛全体の57%
  • 男児では約半数、女児では約7割が低位型
男児女児
総排泄腔型総排泄腔奇形
cloacal malformations
高位瘻孔(+)直腸前立腺部尿道瘻
rectoprostatic urethral fistula
直腸膣瘻[高]
rectovaginal fistula[high]
直腸膀胱瘻
retrovesical fistula
瘻孔(−)直腸肛門無形成、無瘻孔型
anorectal agenesis without fistula
直腸閉鎖
rectal atresia
中間位瘻孔(+)直腸球部尿道瘻
rectobulbar urethral fistule
直腸膣瘻[低]
rectovaginal fistula[low]
瘻孔(−)肛門無形成、無瘻孔型
anal agenesis without fistula
直腸肛門狭窄
anorectal stenosis
低位瘻孔(+)肛門膣前庭瘻
anovestibular fistula
瘻孔(−)肛門狭窄
coverd anus complete, coverd anal stenosis
その他rectopenileurethral fistula
anopenile urethral fistula
perineal canal
総排泄腔外反症[膀胱腸裂]
congenital pouch colon, cloacal extrophy
国際分類 高松,2017より引用

PC線:骨盤底筋群の上端、m線:恥骨直筋群の上縁、I線:恥骨直筋群の下縁

診察

STEP
肛門の位置
  • 男児では陰嚢縫線と陰嚢後縁の後転、女児で後陰唇交連を基準点とし、それぞれ肛門中心までの距離を尾骨先端までの距離で除した値(anal position index:API)で評価するのが一般的

【肛門開口部計測法の基準値】

男児:0.51±0.06 ⇨ほぼ中央
女児:0.35±0.03 ⇨会陰全体の前方約1/3

岩井ら,1988

前方肛門
  • 正常の肛門が通常より前方に位置する状態
  • 肛門は伸縮性があり、へガールブジー(10mm)や小指の挿入が容易
  • 排便機能に異常がなければ経過観察
  • 成長に伴いAPIの上昇を認めることもしばしば
  • 形態的に瘻孔を疑う(拡張しにくい、開口が括約筋の収縮中心にない)、前方偏位が強いなど鎖肛を疑う場合は、MRIで括約筋と開口部の位置関係を評価する
STEP
肛門の外観
  • まず外瘻孔の有無を確認
  • 出生直後には瘻孔が不明でも時間経過により胎便排泄を認めることもあり、皮下まで胎便が進むことで瘻管が明らかとなることがしばしば存在する
  • 瘻孔が存在すれば、男児ではほぼ全てが低位型だが、女児では稀だが中間位の存在に留意
  • 男児では肛門窩より陰嚢方向の皮下に瘻孔が存在することが多い
  • 外瘻孔がない場合、中間位や高位型の可能性が高い
  • 膣口より排便がある場合は、中間位・高位のどちらか
  • 低位型のなかでも肛門狭窄の場合は、瘻孔開口部が本来の肛門開口部である肛門窩にあるものの、正中に盛り上がった棒状の組織(bucket handle)が認められ、開口部を覆う。
  • 位置異常を伴う低位鎖肛の場合は、肛門括約筋は肛門窩に存在しているので、会陰の皮膚刺激で筋収縮を誘発すると、瘻孔部の後方にある肛門窩に収縮中心が認められる
STEP
肛門の大きさ
  • 正常肛門は、成熟児〜乳児期であれば小指の第1関節程度は抵抗なく挿入可能。
    幼児期以降示指挿入が可能な程度
  • 低位鎖肛の場合、瘻孔は伸縮性が乏しいため、小指の挿入も困難なことが多い
  • 開口部に伸縮性が感じられず、索状、リング状に硬さを触れる場合は瘻孔の可能性を考える

新生児期や乳児早期など特に体の小さい時期にむやみに直腸診を行うと肛門損傷のリスクもあるため、検査時には細心の注意を払う。
小指の指先も入らないという印象であれば、肛門狭窄証などが疑われるので、その後は無理せず速やかに小児外科に紹介するべき。

肛門膜様狭窄
  • 肛門狭窄のなかで頻度が高い
  • 肛門の位置、外観ともに正常であるため視診での診断は難しく、直腸診で膜様構造物を確認して初めて診断に至る
  • 直腸診で少量の出血を認め気づかれることも多い

検査

倒立位X線撮影(Invertography, Wangen-steen-Rice法)

  • 瘻孔を認めない場合、病型分類のため倒立位X線撮影を行う
  • 瘻孔を認める場合は、腸管ガスが瘻孔から抜けてしまうため、病型判断には適さなため造影検査を行う
  • 直腸盲端に空気が到達する生後12時間以降に撮影する
  • 肛門窩と会陰部にバリウムペーストを塗布してマーキングし、3分間立位を保持する。
    側面位とし、股関節を70°屈曲させ、左右の大腿骨と坐骨陰影を重ねるようにして撮影する。
    ※重症児では倒立位ではなく、うつぶせのcross-table側面像でも可
  • 啼泣や筋群の収縮具合で直腸盲端の空気の位置が変化するため複数枚撮影する

造影検査

外瘻孔造影

  • 倒立位X線撮影と同方向の側面像で撮影
  • 瘻孔からバルーンカテーテルを挿入し、バルーンを膨らませ牽引し、直腸最下端と皮膚までの長さ(瘻管長)を測定する ※詳細は直腸肛門奇形研究会 診断指針参照
  • 直腸下端から皮膚までの郷里が1cm以内であれば低位型と判断する

尿道・結腸造影

  • 男児では新生児期にルーチーンワークとして尿道造影を行う
  • 前部尿道にカテーテルを留置し、尿道全長を造影する。その後膀胱緊満状態とし膀胱尿管逆流症の有無を確認、最後に排尿時の尿道撮影を行う

総排泄腔型の造影

  • 3管(尿道、膣、直腸)の描出によるおのおのの臓器異常と3管合流形態および共通管長を把握するため、様々な角度から撮影する

治療

治療方針
  • 早期の人工肛門が必要かどうかの判断が重要
  • 外瘻孔が確認できる低位鎖肛の場合、瘻孔のブジーにより口径を確保することで胎便だけでなく、哺乳開始後の普通便も一時的には排泄できるようになるので、肛門形成術(鎖肛根治術)に緊急性はない
  • 外瘻孔が確認できない症例の場合、手術時期は施設間で差があると思われるが、生後12時間以上経った時点で外表への胎便排泄が確認できず病型分類が明らかでない症例については、倒立X線検査排尿時膀胱造影を施行し、排便の確保ができなければ横行結腸またはS状結腸に人工肛門を造設し、排便を確保する

低位型

  • 基本的には新生児期に手術することが多いが、前庭部瘻の児や重篤な先天性心疾患を有する場合は瘻孔を拡張(腸閉塞予防)し、乳児期以降に根治術をすることもある
  • 会陰術式での根治術

中間位・高位型

  • 原則として三期手術
  • 第1期:新生児期に結腸瘻造設
    第2期:生後3ヶ月以上、体重6-8kgに達したら肛門形成術 
    第3期:その2-3ヶ月後に結腸瘻閉鎖術
  • 最近では低侵襲で機能的にも遜色ないとして、直達手術に変わり腹腔鏡下肛門形成術も増加している

総排泄腔型

  • 直腸肛門、尿路、生殖器の形成が必要
  • 共通管の長さ、直腸盲端の高さ、内性器の形成異常の有無により適切な術式が選択される

合併症

  • 鎖肛の約半数に先天性疾患が合併する
  • 高位型で頻度が高い
  • 泌尿器系の異常(単腎症、異形成腎、水腎症、VUR)を伴いやすい
  • 染色体異常
  • 先天性心疾患
  • 消化管異常(食道閉鎖、十二指腸閉鎖など)
  • 椎骨形成異常
  • 外表疾患
  • 二分脊椎症や脊髄係留症、骨盤底筋群への支配神経異常
  • ダウン症を合併する場合には無瘻孔である場合が多い

◉VATER(バーター)症候群
V:椎骨異常 A:肛門奇形 TE:気管食道瘻 R:橈骨奇形/腎奇形を5徴とする疾患。
3徴以上で診断される。
VACTERL(バクタール)association
VATER5徴候に加えて、C:心奇形 L:四肢奇形(Limb)を合併することがあり、この場合VACTER連合と称する

◉Curraino症候群(クラリーノ症候群)
直腸肛門奇形仙骨前腫瘤仙骨奇形を3徴とする症候群


【参考文献】

  • 周産期医学 vol51 増刊号 2021 233 鎖肛(直腸肛門奇形) 島田修平
  • 周産期医学 vol52 No. 10 2022-10 肛門の異常 松浦 玄
  • 細川崇洋,佐藤裕美子,田波 穣,他:第5章 腹部・骨盤  消化器 直腸肛門奇形(鎖肛).
    画像診断38:A216 – A219, 2018
  • 池田太郎:疾患別到達目標 消化器疾患,腹部疾患 鎖 肛.周産期医学50:609–612,2020
  • Rasquin‒Weber A, Hyman PE, Cucchiara S, et al: Childhood functional gastrointestinal disorders. Gut 45(Suppl 2):ii60‒68, 1999
  • 平林 健,松藤 凡,上野 滋,他:原因と病態―嫌 便から快便へ.小児外科 46:896‒901,2014
  • Hyman PE, Milla PJ, Benninga MA, et al:Childhood functional gastrointestinal disorders:neonate/toddler. Gastroenterology 130:1519‒1526, 2006
  • Rasquin A, Di Lorenzo C, Forbes D, et al:Childhood functional gastrointestinal disorders:child/ adolescent. Gastroenterology 130:1527‒1537, 2006
  • Kim HL, Gow KW, Penner JG, et al:Presentation of low anorectal malformations beyond the neonatal period. Pediatrics 105:E68, 2000
  • Kiely EM, Chipra R, Corkery JJ:Delayed diagnosis of congenital anal stenosis. Arch Dis Child 54:68‒70, 1979
  • 青井重善,古川泰三,富樫佑一,他:乳児期以降に診 断された低位鎖肛症例の検討.小児科診療 81:671674,2018
  • 岩井 潤,高橋英世,真家雅彦,他:Anterior Perineal Anus の客観的診断基準 とくに外肛門括約筋筋 電図の意義.日平滑筋会誌 24:193‒203,1988
よければシェアをお願いします
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次