成人の虫垂炎は造影CTで見つけるのはそう難しくなかったけど、小児の虫垂炎は簡単に造影CTをとれないし、エコーは難しいしっていう人も多いのではないでしょうか?
今回はエコーでの虫垂の同定方法や虫垂の評価の仕方などを解説します。
病態
- 虫垂内腔が何らかの原因によって閉塞を起こし、内圧が上昇することが虫垂炎発症の第一段階
- 内宮の狭窄や閉塞を起こす原因として、虫垂内腔のリンパ濾胞過形成(ウイルス感染症、細菌性腸炎、寄生虫疾患などによる)や糞石の関与が大きいと考えられている
- 乳児は虫垂根部の形成が不十分で、漏斗状になっていて、閉塞が起こりにくくなっていることが乳幼児に虫垂炎が少ない要因
- 虫垂内腔の閉塞が内圧の著名な上昇を引き起こし、静脈うっ血から虫垂粘膜の虚血、血栓、壊死、潰瘍形成へと進展し、これに細菌感染が加わってさらに炎症が進んでいく
概要
- 頻度は男児の8.6%、女児の6.7%が生涯で虫垂炎を罹患する1
- 急性虫垂炎は4歳以上、腸重積が6ヶ月-3歳で年齢が重ならないことは臨床的に重要
- ただし3歳未満の虫垂炎がいないわけでない
- <5歳は20%弱、3歳未満は5%、1歳未満は<1%
- 4歳未満では診断児虫垂穿孔がほぼ起きている(80-10%)
- 典型的な経過は食欲不振・心窩部痛で始まり、24時間以内に右側腹部に痛みが生じ、24-48時間で発熱する
- 上腹部痛⇨右下腹部痛の移動する腹痛は小児では2/3に認める
- 小児虫垂炎の穿孔率は15.9-34.8%
なかでも幼児期の穿孔率は学童期と比べて高率である
学童期以降は穿孔しにくいとはいえ、72時間経過すれば一般的に穿孔する2 - CRP 5mg/dL以上は穿孔の予測として感度76%、特異度82%3
- 右下腹部痛は80-90%で見られるが、右下腹部が痛くない虫垂炎は割といる
私は腸回転異常症の患者で臍のすぐ真下にある虫垂炎を経験した - 血液培養は非穿孔性では陽性になる症例は少ないが、穿孔性虫垂炎では10%が陽性になる
⇨小児では穿孔しやすい背景を考慮して血液培養は採取すべき
虫垂炎の分類
カタル性 粘膜表層のみに限局した状態
蜂窩織炎性 炎症が粘膜下層から筋層、漿膜、虫垂間膜まで及んだもの
漿膜面にフィブリン苔が付着したり、炎症性浮腫に虫垂壁が著明に肥厚しているが壁構造は保たれている状態
壊疽性 さらに炎症が進展し、粘膜が破壊され、虫垂壁が暗赤色にうっけつして壊死を起こし穿孔しやすくなった状態
診断予測スコア
小児の虫垂炎診断予測スコアはAlvaradoスコアとPediatrics Appendicitis score(PAS)が代表的である。
いずれも特異度は低いが、感度は高いため、除外診断に使おう。
Alvaradoスコア(アルバラドスコア)
項目 | 点数 |
---|---|
右下腹部への痛みの移動 | 1点 |
食思不振 | 1点 |
嘔吐 | 1点 |
右下腹部圧痛 | 2点 |
反跳痛 | 1点 |
37.3℃以上の発熱 | 1点 |
WBC≧10,000 | 2点 |
白血球の左方移動 | 1点 |
≧7点 虫垂炎の可能性が高い 4-6点 総合的に判断 ≦3点 虫垂炎の可能性が低い
Pediatrics Appendicitis score(PAS)
項目 | 点数 |
---|---|
38℃以上の発熱 | 1点 |
食思不振 | 1点 |
悪心・嘔吐 | 1点 |
咳嗽、打診、跳躍時の右下腹部痛 | 2点 |
右下腹部の圧痛 | 2点 |
疼痛部位の移動 | 1点 |
WBC>10,000 | 1点 |
好中球数>75,00 | 1点 |
≦3点 虫垂炎の可能性が低い 3-6点 経過観察やエコー、CTなどの追加 ≧7点 虫垂炎の可能性が高い
エコー
エコーの感度は88-95%、特異度92-95%、CTは感度92-97%、特異度94-97%で両者に大差はないがわずかにCTがエコーより評価が高い4
エコーの流れ
まず肝腎境界、脾周囲、膀胱直腸窩の腹水の有無を確認
腸管拡張の有無を確認
腸骨と腸腰筋をメルクマールにあたりをつける
横操作
腸腰筋+総腸骨動静脈の前方を横切る回腸末端および盲腸を同定
その周囲を丹念に検索する
解剖学的に上行結腸▷盲腸▷虫垂とアプローチする
横操作
最右にある上行結腸を同定する
横操作
ハウストラを同定 ▶ 下端(盲腸)を同定する
縦&横操作
盲腸から出る虫垂を同定する
虫垂の位置(向き)
- 虫垂の位置が症例によって様々だということを認識しておくことは重要
/
腸管ガスが多くて観察しづらい場合は、プローブを『優しく』『ゆっくり』、しかし『深く』押し当てると見えやすくなることもあるよ
- 圧迫で変形する(内腔圧が高くないことを示唆)
- 直径6mm以下
- 蠕動しない
- 盲端で終わる
- 虫垂炎では炎症により周囲腸管ガスの減少に加えて脂肪織のエコー輝度が上昇しており、
逆に低エコー輝度の管腔像として見つけやすくなっている。 - カラードプラでは炎症による血流増加が見られる
虫垂腫大を確認できたら虫垂に一致して圧痛があることを確認しよう
膿瘍は膀胱の背側や頭側に壁のない周囲より低エコーの充実性腫瘤として描出されることが多い。
虫垂穿孔で描出しにくくなっている可能性に注意しながら別の鑑別疾患も検索しよう
鑑別診断
回盲部炎
- 回盲部の炎症が虫垂に波及することで二次的に虫垂腫大を認めることもしばしば
- 一次性の虫垂炎では狭窄・閉塞による内宮圧の上昇に伴い緊満感をもって腫大し(圧迫で変形しない)、虫垂に一致して圧痛点を認めるが、回盲部炎に伴う二次性の虫垂腫大では緊満感がなく、回腸末端〜上行結腸優位に壁肥厚と圧痛を認めることで鑑別
- 原因:キャンピロバクター、サルモネラ、エルシニアなど
- 上行結腸優位の著明な壁肥厚を認めた場合、O157による出血性腸炎を疑う
- 腸管壁肥厚を絶対値では判断しないが、3-4mmを超えると肥厚が確認され、5mmを超えれば明らかに肥厚と判断できる
※ただし正常でも蠕動に伴って3-4mmに見えることがあるため注意
腸間膜リンパ節炎
- 原因:エルシニア感染やウイルス感染が指摘されている
- 虫垂炎や他の腹部炎症性疾患に伴って二次性に腫大することもあるため、それらを否定してから診断
- 腸間膜リンパ節腫大の定義は短径:5-10mm以上、長径:10mm以上の報告がある
- 虫垂の腫大はなく、軽度の回腸末端壁肥厚を認めることがよくあるが、回腸末端壁の肥厚が優位なとき(≧5mm)は回腸末端炎(+腸間膜リンパ節炎)と診断し、腸管壁肥厚が目立たないときに腸間膜リンパ節炎と我々は診断している。
O157腸炎・溶血性尿毒症症候群(HUS)
- O157による出血性腸炎は他の細菌性腸炎に比べて腸管壁の肥厚が強く、ときに腸管内腔の狭小化を伴う
- 上行結腸に病変が好発するが全結腸に及ぶこともある
- 合併症としてHUSがあり、腎臓も観察する
- HUS発症例では腎腫大およびエコー輝度の上昇(肝臓より白くなる)が認められる
- 腸管壁の肥厚が強いほどHUSを合併しやすいとされている
IgA血管炎
- 腹痛・関節痛・紫斑の3主徴が全て揃えば診断は簡単だが、15-35%では紫斑より先に腹部症状を呈するため、エコーが診断のきっかけになることがある
- また合併症として腸管穿孔や腸重積症(回腸回腸型が多い)を発症することがあり、検索が必要
- 十二指腸下行脚〜水平脚および小腸に病変の出現頻度が高い
- 心窩部縦操作で胃前庭をたどりながら、体の右へプロープをずらしていき、幽門部から連続する十二指腸球部を同定する。
プローブを反時計方向に回転させ、横操作で足側にずらしていくと十二指腸下行脚が胆嚢の下あたりに肝臓と膵頭部に囲まれるように描出される。
水平脚は下行大動脈とSMAの間を横走するが通常は観察されない
ウイルス性腸炎
- 原因:ロタウイルス、ノロウイルス、サポウイルス、アストロウイルス、アデノウイルスなど
- 細菌性腸炎は回腸末端〜上行結腸の壁肥厚を呈するのに対して、ウイルス性腸炎は小腸の拡張性病変が主体
- 腸管壁の肥厚や周囲の炎症性変化(脂肪織エコー輝度上昇や腹水)は目立たず、小腸を中心とした腸管の拡張および腸液貯溜が認められる
エコーでよくわからず、痛みがとても強かったり炎症が高かったりした場合は、経過に応じてエコーの再検だったり躊躇せず造影CTに踏み切ろう!
治療
- 治療方針は各施設の外科によって様々であるのが現状
- 小児では抗菌薬による保存的治療が多い
- 大まかな目安としては非穿孔例では抗菌薬、穿孔例では外科手術+抗菌薬
- 腹腔内の腸内細菌、嫌気性菌をカバーする抗菌薬を選択する
- 起因菌は様々だが、E.coli、B.fragilisが最もよく分離
保存的治療
- カタル性虫垂炎では抗菌薬治療の初期治療成功率は95-100%、遠隔期再発率10-27%
- 糞石の有無や虫垂径は抗菌薬の成功率とは関連しない
治療期間
- 非穿孔性虫垂炎で手術した場合、術後抗菌薬は1-5日間。ガイドラインでは術後1日でよいとされている
- 穿孔性虫垂炎で外科的治療後は、5-10日間投与することが多い。
- 新生児の外科的治療後の抗菌薬は最低10日間は行う
- 当院では抗菌薬治療のみの場合は、痛みが消失するまで投与としており、基本的に静注で投与を続けている
非穿孔性でカタル性などの軽症例
CMZ(セフメタゾール®、セフメタゾン®) 100-150mg/kg/day 分3
穿孔性や腫瘤形成性などの重症例
PIPC/TAZ(ゾシン®、タゾピペ®) 300mg/kg/day 分4
- 虫垂の走行にはとてもバリエーションがあるということ▶つまりマックバーニー点はあくまでも目安
- 虫垂腫大が描出できない場合は症状・所見・検査を加味して穿孔している可能性がないかを常に考える!(安易に腸炎と診断しない)
【参考文献】
- 伊藤健太 『小児感染症のトリセツREMAKE』 金原出版 ↩︎
- UpToDate®:Acute appendicitis in children ↩︎
- UpToDate®:Acute appendicitis in children ↩︎
- 岡本光宏 『めざせ即戦力レジデント!小児科ですぐに戦えるホコとタテ』 診断と治療社
- 神奈川県立こども医療センター 小児内科・小児外科 『小児科当直医マニュアル 改定第15版』 診断と治療社
- 伊藤健太 『小児感染症のトリセツREMAKE』 金原出版
- 斎藤昭彦 『レジデントのための小児感染症診療マニュアル』 医学書院
- 日本小児救急医学会 診療ガイドライン作成委員会編『エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017』
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