【猿でもわかる】これだけ押さえる!小児の乳糖不耐症

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胃腸炎の後に下痢が長引くと相談され、正直よくわからないけど元気そうだし「下痢は長引く子もいるので様子をみましょう」と整腸剤だけ出して対応したことがないでしょうか?
今日は意外と多い乳糖不耐症についてわかりやすく解説します。

目次

乳糖不耐症とは!?

概念・定義

  • ミルクに含まれる乳糖(ラクトース)グルコースとガラクトースに分解する乳糖分解酵素(ラクターゼ)の活性が低下しているために、乳糖を消化吸収できず、著しい下痢や体重増加不良をきたす疾患
  • 哺乳類は生後一定期間はラクターゼ活性は非常に高く、授乳期を過ぎると活性が生理的に低下する

分類

  • 先天性の酵素欠損
  • 二次性の酵素活性低下

先天性乳糖不耐症

先天性乳糖不耐症の病因

  • ラクターゼの構造遺伝子であるLCT遺伝子の異常による
  • LCT遺伝子の変異によってラクターゼ活性が障害された患児では、母乳やミルクに多量に含まれる乳糖を分解・吸収することができない
  • 消化されずに大腸に流れ込んだ乳糖は激しい水様下痢(浸透圧性下痢)大腸内での腸内細菌による乳糖の発酵のため、著しい腹部膨満腹鳴をきたす。
  • なお、LCT遺伝子の発現はMCM6遺伝子と呼ばれる調節遺伝子の制御を受けており、通常はこの遺伝子の働きによって離乳期を過ぎるとLCT遺伝子からのラクターゼ産生が徐々に低下し、幼児期以降には乳児期以前に比して相対的に乳糖の消化吸収能力が低下する▷後天性、二次性の乳糖不耐症の成因と関係している

先天性乳糖不耐症の疫学

  • 先天性の乳糖不耐症はまれ
  • 日本でも海外でも正確な疫学は不明だが、最も高頻度とされるフィンフランドでも6万出生に1人とされている1

先天性乳糖不耐症の症状

  • 新生児期あるいは乳児早期に、哺乳後数時間ないし数日で著しい下痢を呈することで発症
  • 症状の発現時期や程度は残存ラクターゼ活性の程度による
  • ラクターゼ活性は加齢とともにさらに低下し、少量の乳糖(を含む食品)の摂取で著しい水様下痢腹鳴腹部膨満を呈するようになる
  • 時に反復性の痙性腹痛を伴う場合がある
  • 乳糖の摂取を中止することによって下痢や腹部症状は数時間から1日程度で治まる。

先天性乳糖不耐症の診断

小児慢性特定疾病情報センターHP

新生児期や乳児早期に上記の症状があり乳糖の除去によって症状の改善が確認される場合に疑われる

■便の生化学的検査
pH<5.5、便中Na+<70 mEq/L

■経口乳糖負荷試験
腹部症状を呈し、血糖の上昇が20 mg/dL未満であり、呼気中水素ガス濃度が20 ppm以上上昇

■経口ブドウ糖負荷試験
グルコース・ガラクトース吸収不全症を否定するために経口ブドウ糖負荷試験でブドウ糖吸収が正常であることを確認することが望ましい

■便クリニテスト(還元糖)
以前はよく行われていたが、2012年に検査試薬が製造中止となり行われなくなった

先天性乳糖不耐症の治療

小児慢性特定疾病情報センターHP

【新生児、乳児期】
母乳や普通ミルクを中止して無乳糖ミルクに変更MA-1®など)

【離乳期以降】
乳糖、乳製品の摂取を禁止
β-ガラクトシダーゼ製剤(ガランターゼ®、オリザチーム®ミルラクト®)がラクターゼ活性を補助するが、先天性乳糖不耐症に対しては酵素活性が不十分で効果が低い

米国などで販売されているLactaid®(個人輸入が可能)は高活性で本疾患でも乳製品の摂取前に服用することで症状の発現を抑制することができる。

オリザチーム®、ミルラクト®、ラクチーム®、カラシミーゼ®は現在販売中止となっており、ガランターゼ®のみしか使用できないが、供給が追いついていない(2024年5月現在)

下痢なのでミヤBM®などの整腸剤を処方することも多いが、整腸剤は乳糖が微量ながら添加されいる。
通常不要なことが多いが、厳密に管理する場合は整腸剤には気をつける。
ちなみに含有量はビオフェルミンR®<ミヤBM®<ラックビー®なので乳糖不耐症にはビオフェルミンR®が使いやすい

予後

小児慢性特定疾病情報センターHP

乳糖除去食や酵素製剤の併用によって日常生活への障害度は低く、生命予後は良好であるが、ラクターゼ活性が回復することは期待できない

二次性乳糖不耐症

先天性よりも二次性のほうが診療する機会は多いので二次性をメインに勉強するといいと思います。

二次性乳糖不耐症の病態

乳幼児早期に感染性胃腸炎を契機として2週間以上、下痢が持続する場合がある
そのような病態を腸炎後症候群と呼ぶ

二次性の乳糖不耐症新生児乳児食物蛋白誘発胃腸症が関与していると考えられている

STEP
通常は小腸上皮は約2-3日で入れ替わる

剥がれ落ちた上皮細胞もしばらくは消化酵素活性を保つため食物に混ざって消化を助けている

STEP
感染性腸炎などで激しい下痢が続く
STEP
陰窩から絨毛への粘膜上皮の再生が間に合わなくなる
STEP
腸内に混ざり込む消化酵素の量も著しく減少する
STEP
乳糖など二糖類の分解・吸収不全が生じて、消化されずに大腸に流れ込む
STEP
浸透圧性下痢および腸内細菌による乳糖の発酵のため腹部膨満や腹鳴を起こす

通常時には分解・吸収が可能な糖質でも下痢を引き起こすようになる

下痢や感染をきたすと免疫のバランスが急激に変化し、感染が誘引となり消化管粘膜に存在する免疫担当細胞が活性化される。

胃腸炎により小腸粘膜の損傷をきたし、粘膜防御機構が破綻し、未消化のオリゴペプチドが粘膜内に侵入して、多種類の抗原と遭遇するようになる。すると、抗原提示の増強やTh1/Th2細胞の活性化、制御性T細胞の活性低下などが関与し、寛容状態が破綻して食物アレルギーの発症を助長する。

アレルギー反応により一時的に絨毛が萎縮し、吸収不良が起こることで腸管細胞の分泌成分が増加し、下痢が遷延する。

二次性乳糖不耐症の検査

一次性乳糖不耐症の検査に準ずるが、
胃腸炎後の長引く下痢など経過が疑わしければ検査はせずに、二次性乳糖不耐症として対応することが多い

二次性乳糖不耐症の治療

  • 治療の中心は食事療法輸液療法
  • 初期(24-48時間)は末梢輸液により脱水、電解質、代謝性アシドーシスの補正を行う
  • 重症例では腸管安静のため絶食とする

【栄養障害が軽度の場合】

  • 乳糖除去・蛋白加水分解乳(MA-1®など)を少量(30-60mL/kg/日)・低濃度から開始
  • 徐々に維持量(90-130kcal/kg/日)まで増量

【中等度の栄養障害や蛋白加水分解乳でも効果がない場合】

  • さらに抗原性の少ない新生児・乳児用のエレンタール®Pなどの成分栄養剤を少量・浸透圧が低い濃度から開始
  • 便回数・性状を観察しながら7-10日かけて維持量まで増量

エレンタール®P
開始:0.4-0.6kcal/mL(1包40gを390mLになるように溶解)
維持期:0.7-0.8kcal/mL(1包40gを195mLになるように溶解)

必須脂肪酸欠乏の予防のため、脂肪乳剤の経静脈投与(0.5g/kg/日)を1-2回/週

微量元素(鉄、亜鉛、セレンなど)、各種ビタミンの補充も適宜行う

難治性下痢症の鑑別

  • 乳幼児において2週間以上続く下痢を慢性下痢症と定義される
  • 診断は『難治性下痢症診断の手引き』を参考にするとよい
『難治性下痢症診断の手引き』より引用

Take home message

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乳糖不耐症で入院となる子は少なく意外と経験が少ないと思いますが、外来診療では割と多くいます。典型的な病歴と治療は理解しておきましょう

  • 胃腸炎後の長引く下痢は二次性乳糖不耐症を鑑別にあげる
  • 乳糖不耐症は乳糖を分解するラクターゼが減少 or 活性低下が原因
  • 二次性乳糖不耐症の治療はガランターゼ®MA-1®

【参考文献】

  1. 小児慢性特定疾病情報センターHP ↩︎
  • 星雄介、虻川大樹「腸炎後症候群」『小児内科』Vol. 55 No.3 2023-3
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